ブログトップ

白髪の旅ガラス

カテゴリ:小説( 408 )

司法取引

「正直に話せば、あなたの罪は許してあげよう」

「本当ですか」

「あなたには、こちらの提案を疑う資格はない筈だが」

「ごもっとも」


 こんな話があったか否かは分かりませんが、犯罪行為の仲間から情報を引き出す見返りに、証言者の罪を軽くする司法取引が行われたようです。主犯を逮捕し法定の場に引き出す手法として、今後は増加することでしょう。


 似たような手法を使い、環境ISOの審査を行ったなら、どんな審査が行われることやら。

「法規制の要求事項から外れる案件を教えてくれたら、あなたの責任は問いません」

「そんなことをしたら、あなたが責任を問わなくても、私は会社を辞めなくてはなりません」

「と言うことは、それほど深刻な法規制の違反があると言うことでしょうか」

「・・・」


 法規制の違反を確認した審査員は、社長に問いました。

「順守の体制、維持されていますか」

「ええ、管理責任者の報告では、全ての法規制を守る体制が維持されています」

「では、水銀を含む製品の廃棄処理に関し、委託契約書を御覧になりましたか」

「いいえ」

「現場で確認しましたが、許可のない業者に処理を依頼しているとのことでした」

「そんな話を」

「ええ。大変正直な方ですから、誉めて頂きたい」

「勿論です」


 知らぬ間の 解任劇は 良くあるね

d0052263_06581142.jpg



[PR]
by tabigarasu-iso | 2018-11-28 06:56 | 小説 | Comments(0)

せこい

「しみったれた奴だな」

 「誰のこと」

「あんたさ」

「どうして」

「誘っておきながら割り勘なんて」

 「そうですか」

 「おや自覚してないね」

 「随分と飲んだよ」

 「そうだったかな」

 「自分の倍は飲んだよ」

 「なのに割り勘とは」

 「太っ腹なの」

 「おみそれしました」


 せこい人 自分の財布を 見せません

d0052263_08282396.jpg
 


[PR]
by tabigarasu-iso | 2018-09-26 17:00 | 小説 | Comments(0)

一坪庭のモニタリング

 家の中で昼寝に飽きた僕は、休憩に降りて来た主人に猫撫で声を出します。

「ニャアーン(散歩に連れてって)

「そうか、散歩に行きたいか」


何度も猫撫で声を繰り返す内に、主人は僕の言葉が分かるようになりました。玄関を開け、太陽の熱い光で焼けた一坪の庭に出て、僕は石の上に腹を載せます。


視界の右には、身体が温まり動きの活発になったて尾の青いカナヘビが物陰から出たかと思えば直に隠れてしまう。僕は、それを見て見ぬ振りです。


目の前には、小石を避けて歩く毛虫が現れました。それを視界の左から現れた二匹目のカナヘビが追い掛けたものの、食えない代物と分かって元の位置まで引き返す動きの速いこと。僕は、これも見て見ぬ振りです。


視界の上方には、モンシロチョウがノンビリ舞って僕を誘ってくれますが、僕には手が届かないから、これも知らん顔して見逃してあげました。


何も出来ない相手と思われた頃、僕は視界の右に再度現れた尾の青いカナヘビを狙います。抜き足差し足忍び足、捕捉しようとした時、主人は僕を制止しました。


残念でしたが、カナヘビより美味いチュルチュルを貰える筈ですから、主人を恨むことはありません。それにしても、僕に付き合う主人は、僕より暇な人です。


梅雨の中 重い鞄で 額汗


[PR]
by tabigarasu-iso | 2018-06-11 07:11 | 小説 | Comments(0)

腹に落ちる

 「腹に落ちる」物は水と食料ですが、別の意味では納得する、得心する、なるほどそうだと思う意味があり、意味は分かっても、納得の出来ない事柄もあるから、それは腹に落ちないことになるのでしょう。


 ところが、「腹に落ちる」と言う言葉を知らない人は、それを耳にして首を傾けることになります。

「確かに、説明は腹に落ちました」

「・・・すいませんがもう一度」

「具体的な説明で腹に落ちました」


 腹に落ちる喩を知らない人は、具体的な説明で何が腹に落ちたのか尋ねたい気持ちを抑え、分かったように言いました。

「なるほど、有難うございます。私の説明が腹に落ちたのですね」


 そう言いながら、説明が腹に落ちるとは、説明に得心する意味だと話の流れで理解した人は、続けて返します。

「私も自分の説明を貴方に得心して貰い、何となく腹に落ちました」


腹の中 「に」と「から」とは 大違い



[PR]
by tabigarasu-iso | 2017-10-27 16:30 | 小説 | Comments(0)

ハゼ

 タナゴと一緒に買われて水槽暮らし。多分、三年は経ったと思うが苦にしない。寿命の来る日まで、タナゴの餌を分けて貰う。


自分の仲間は三匹、集まる習慣もなく、それぞれ好き放題に暮らしている。傍から見れば寂しそうで、素焼きの壺を買って貰った。


最初に見付けたのは自分、壺の中にある小石を壺から運び出し、広くなった壺の中で満足している。腹が空いても、留守には出来ない。壺の上で中を狙う仲間が待っている。


もしかしたら彼女かも知れないが、自分にはそれを確かめる術がない。仲良く、近くを二匹で泳ぐタナゴに聞いてみるか。


縄張りに 隠れて眠る ハゼもあり

d0052263_14421770.jpg



[PR]
by tabigarasu-iso | 2017-09-25 14:00 | 小説 | Comments(0)

目に見えない不思議な力

 日が昇り暫くたった時のこと、驚くと尾が太くなる僕は階段に座る巨大な生き物を発見しテーブルの下に潜り込んでしまいました。


 この家に世話になって四年目になりますが、階段に住む怪物に出会ったことは一度もありません。出来ることなら撃退し、家人を安心させてあげたいところですが、とても歯が経ちそうにもない。


とは言え、怪物は追い掛けて来る気配もありません。落ち着きを取り戻した僕の尾が元に戻ったところで、もう一度発見場所まで怪物を探しに行くことにしました。


そこには誰も居ません。洗顔を済ませた女性が一人居るだけです。僕には目に見えない不思議な力があると思いましたが、勘違いし易い、臆病な性格の所為であったかも知れません。


盆の頃 先祖の霊が 見えそうな



[PR]
by tabigarasu-iso | 2017-08-13 20:30 | 小説 | Comments(0)

おばんになりやんす

 猛暑から一転して、凌ぎやすい盆前になりました。山仕事から帰った顔見知りに掛ける村人の言葉は、平成のものとは思えません。

「おばんになりやんす」

「いいあんばいで」

「本当だな。きのうまでの暑さ、何処へ行ったんだんべぇ」

「おらあ知らね」

「そんだな。おめえさんに聞いた俺が間抜けだ」

「待てよ。まだ、俺はボケちゃいねぇ」

「そうさ、百歳を少し越したばからだからな」


 山仕事を終えた翁は、ルールも良く判らないプロ野球を楽しみにテレビ観戦しながら、戦後72年を想い出しているようです。野球は敵国のものだと口にすることもなく過ごした青春があったこと、休みなく働くことが当たり前で土日の休日などなかった。


涼しい風が吹き込み、聞こえ難くなった翁の耳にも雨音が聞こえます。

「明日は骨休みだ」

 翁の独り言を耳にしたお婆さんは、大きな声で言った。

「山の日ですよ、お爺さん」

「そうだな。山の日が出来るとは驚いたもんだ。いつか、空の日も出来るだんべ」

「間違いねぇ」


 緑の日、海の日、山の日、そして川の日から空の日まで、自然を大切にする祝日が増える世の中になるとは、大正生まれの翁には想像出来なかったことでしょう。

「おばんになりやんす」

夜分、何処からか懐かしい声が聞こえてくるようです。


油蝉 脱皮しないと 夏が過ぎ


[PR]
by tabigarasu-iso | 2017-08-10 22:11 | 小説 | Comments(0)

蝉の避暑

 出番ですよと言われて土の中から這い出た油蝉でしたが、地上の猛暑に圧倒されて鳴くことを忘れたようです。


太陽の光が降り注ぐうちは網戸に張り付いたまま、それに気付いた翁がカメラを向けても逃げることはありません。


やがて太陽が西に隠れて薄暗くなりましたが、未だ用心して動く気配はなく、風が吹き始めたところで安心したようです。


本能に導かれるように網戸を離れ、育てて貰った琵琶の木を目指し迷わない。まっしぐらに飛翔すること数秒、樹幹に溶け込み見えなくなりました。


 初蝉に 熱中症を 心配し

d0052263_09533850.jpg



[PR]
by tabigarasu-iso | 2017-07-15 09:30 | 小説 | Comments(0)

サクランボ物語

 梅雨明けが話題になる頃、サクランボも店頭に並び始めます。綺麗に箱詰めされたものは、手間暇を掛けたものですから、それなりの値札に頷くばかり。手に取ることも恐れ多く、その場を急ぎ足で通り過ぎながら、翁は生まれ育った田舎の庭の片隅に植えてあった桜桃の大樹に上ったことを想い出していました。


木の高さは農家の二階屋根より高く、太い幹は大人でも隠れることが出来るほど。夏が近付くと桜桃は梢に沢山のサクランボをぶら下げ、食べたかったら上っておいでよと子供達を誘いました。


根元から最初の枝まで太い幹を上ることが出来れば、その先には枝が四方に広がり、白色から赤色まで色とりどりのサクランボが待っています。当時の翁は身軽でしたから、両手両足を駆使して尺取り虫の如く上って行きました。


翁より小さな弟達は、木の下でサクランボが落ちてくる瞬間を待っています。翁は、ピンク色になり始めたサクランボを味見してみました。それこそ採り立て、頬が落ちる甘さを知った瞬間のことです。ボキリと鈍い音が聞こえ、翁の身体は落ちて行く。

「あんちゃんじゃねぇ、サクランボだよ」

 弟の不満な声が遠くから聞こえたものです。


桜桃を 腹一杯 食べる夢

d0052263_09435273.jpg



[PR]
by tabigarasu-iso | 2017-07-03 09:00 | 小説 | Comments(0)

掌編小説

 短編小説より短い掌編小説と言うものがあるらしい。二十行小説とか、一枚小説と言う人も居る。


 待てよ、ブログの呼称とシステムを借り、時折、日記ではなく短い小説を掲載し続けて十二年余り、白髪の旅ガラスの小説は掌編小説そのものであった。


 そのつもりで本人は書き続けきたが、ブログを読む人は日記だと思い、旅ガラス自身が認める人格とは別な作者を想像していた人も居ることだろう。


 どちらにしても、人間としては似たようなもので大した差はないが、想像の世界で創り上げた物語を現実にあるものと信じて読んで貰っていたとすれば、作者の狙い通りである。


 超短編 気軽に綴る ブログあり

d0052263_14474965.jpg



[PR]
by tabigarasu-iso | 2017-06-25 14:46 | 小説 | Comments(0)