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白髪の旅ガラス

2014年 06月 06日 ( 1 )

「君、来月に環境管理事務局が主催する内部監査員養成コースに出席するように」
「はあ、そのコースは美味しいものが出るのでしょうか」
「良く分からんが、コースと案内状にあるから、その可能性はあるかも知れん」
「なら、喜んで参加します」
「そうか、それでは頼んだよ。ところで、コースの仕上げには修了試験があるそうだ」
「はあ、そうですか。その試験に落ちたら、どうなるのでしょうか」
「良く見れば、追試があると書いてあるな」
「課長、それはないでしょう」

 こうして、何の準備もなく内部監査員養成コースに参加したのは、入社数年のアサマ青年でした。
「初めまして、本コースの講師を務めるシラネと申します」
 現れた講師は、アサマ青年の父親より年上の翁ですが、挨拶の言葉に力と温もりを感じます。
『この講師なら、何も知らない人でも何とかしてくれそうな』
 そんな思いを胸に秘め、液晶プロジェクターから次々と映し出される画像を追いながら、シラネ講師の話に耳を傾けました。

 そこで理解したのは、自分達で決めたルールや目標が守られているか否か、検証する役割が内部監査員であることです。また、それらが守られていないケースを発見した場合、どうしたら守れるのか、アイデアの提供もしなければなりません。

『はて、困ったぞ。相手の駄目出しは出来そうだが、解決策の提案など簡単には行かないな。ひとつ、講師に訊いてみるか』
 アサマ青年は、シラネ講師が不適合処理の説明を終えたところで質問しました。
「只今の説明では、不適合が発生した原因究明、それを取り除く是正処理が重要とのことでした。それで悪い現象の再発は防げることは分かりましたが、仕組みを良くするアイデアの提案は、どうしたら良いのでしょう」

 シラネ講師は、笑顔で答えます。
「良い質問ですね。アイデアの中身は別として、アイデアの提案場所として効果がある個所の探し方を説明しましょう。例えば、不適合の原因が教育にあった場合、教育計画に問題はないか、実施方法に問題はないか、教育効果の確認方法に問題はないか、教育手順の見直しに問題はないか、深掘りしてみましょう。仮に、実施方法に問題があると分かったら、それを解決するアイデアは浮かんだも同然です」

 シラネ講師の目の覚めるような説明に、居眠りしていた受講生も目が覚めたようです。こうして内部監査員養成コースは終了し、翌日、アサマ青年は部長に報告しました。
「大変結構なコースで美味しく頂きました」
「そうかぁ」
 その驚いた顔は、目の前の徳利を取り上げられた狸のようでしたから、次の機会にはその写真を見せたいと思います。
 

 話し終え 拍手嵐に 講師泣き
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by tabigarasu-iso | 2014-06-06 00:00 | 小説 | Comments(0)