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白髪の旅ガラス

2010年 03月 04日 ( 1 )

地下鉄に乗る牡丹

 地下鉄日比谷線の茅場町駅は、仕事を終え帰宅する人の群で溢れています。整列乗車で通路の塞がれたホームの空いている場所と言えば、線路際の最前列に並ぶ人の前しかありません。そこを通る際には、ホームから落ちないよう重心をホーム側に置いて歩きますから、命懸けの歩行になります。

 気の所為でしょうか、復路の電車は往路より静かに駅に着き、慌てずに乗り込む車内も朝ほどの混み方ではなく、そればかりかポッカリと乗客の居ない空間がありました。そこへ迷わず向かうと、居眠りする持ち主の足元に大きな牡丹の花を咲かせた鉢が置いて在ります。

 電車が小さく揺れる度に大人の拳ほどの花房も揺れ、いつ折れてしまうのか気になり仕方ありません。だだ、そうした脆い花びらの何とも美しいこと。つい、怪しい紫の色を放つ花房を手に取ってみたくなります。そうした思いは、横に立ち並ぶ人も同じなのでしょうか、牡丹の花を中心に頭が左右に揺れるのが判りました。

 せめて、その姿を写真に納めようと購入したばかりの携帯電話に手をやりましたが、その電源を切る特別席の前でしたから、失礼と口にして思わず手を胸から離します。さては仕方なく、疲れを吸い取る紫の大輪を己の網膜に焼き付け、地下鉄から中距離電車に乗り換えたところで、想い出しながら筆を取るしかありません。

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山里の 牡丹が地下を 観光に
by tabigarasu-iso | 2010-03-04 08:48 | 小説 | Comments(0)