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白髪の旅ガラス

2007年 08月 27日 ( 1 )

虫の音

 近くを通る車のエンジン音も小さくなり、辻で立ち話に興じる近所のおばさん達も喋り疲れ果て、タイムリミットの迫った蝉も薄暗闇で最後の鳴きを終える頃、遥か遠くの空地から、虫の鳴く声が微かに聞こえてくる。

最初、耳鳴りに思えた虫の音は、地上の温度が下がったことを教え、その優しい音色で、深い眠りの世界へと導いてくれるようだ。床に着いて横になると、その音色は益々音量を増して、小さな音色でも方々で鳴き足せば、かように広範囲に亘り音を響かせることができるものかと感心させる。

それにしても、先程から演奏を始めた虫の音は生々しい。どうやら音源の一つが部屋の中にあるようだ。灯りを点けて探そうとすれば、急に音色は小さくなり、灯りを消すと音量が増す。そこで、強まる音源に耳を向ければ、薄暗い箪笥の後に何匹かで出張し、野暮なカラスに秋の到来を教えているようだ。

わざわざ出向いてくれた虫の音を、自分だけの子守唄に眠る贅沢、これ以上のものは、他に無いであろう。けれども、清水の澄んだ流れにも似た虫の音は、昔暮らした田舎の想い出を蘇らせてくれたが、疲れた脳を休めるには近過ぎた。

いつしか、翌朝の起床を控えた身には、子守唄を通り越して騒音になる。蚊ではないから、電子式の蚊取り線香で追い払うこともできず、鳴き疲れるのを待つのも、秋の夜長の始まりだから、仕方の無いことであろう。


                  手書文 相手の顔も そこに見え
by tabigarasu-iso | 2007-08-27 22:59 | 随筆 | Comments(0)