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白髪の旅ガラス

2005年 08月 28日 ( 1 )

ふつう

 毎年、夏から秋に掛けて、南の海で生まれた台風は、律儀にも日本列島に立ち寄り、大雨と強風を配下に引き連れ、それまで大人しく流れていた河川に反乱を起こさせ、人の手で植えた貧弱な樹木をなぎ倒し、傘など無用の代物としてから、折り目の入ったサラリーマンのズボンまで濡れ鼠にし、どこか折れ目か分からぬジーンズ仕様にしてしまう。

 それでも、翌日の早朝からコンサルを控えた旅ガラス、エアコンの効いた涼しい巣に引きこもり、暴君の通り過ぎるのを待ってはいられないから、新幹線が不通にならない内に、いつもより一時間ほど早く東京駅を発ち、米原へと向かった。静岡駅を過ぎたところで、仲間から携帯電話に電子メールが入り、東京は豪雨の最中、台風の中心は静岡に接近中と教えてくれる。そこで、車窓から空の様子を確かめれば、雨もなく穏やかな夕暮れに、お礼のメールを返した。
「貴重な情報、ありがとう。安心して旅ができます。それにしても、台風は何処に居るのやら。こちらは晴れですぞ」

 どうやら、暴れ者が東海地方に上陸する直前、東海道をひかりで通過したから、行き違いになったようだ。南彦根について電車から降りると、傘を手にした者は、濡れたズボンの先が乾いて丸くなった自分の他に、誰も居ない。連れの仲間と馴染みの居酒屋に寄り、夕飯を喰いながらテレビの解説者の話を聞けば、只今新幹線は上下線ともふつうだと言う。

 新幹線は特急列車だから普通列車である筈がない。してみれば、先のふつうは不通であろう。同じ読みでも、意味が逆なら、緊急事態に使う言葉としては、不適切ではなかろうか。普段と同じく「電車は今日も几帳面に走る」とか、異常時で「途方に暮れて雨宿り中」とか、誤解されない表現を、工夫して貰いたいものである。

蝉好きが ゴキブリ嫌う 鳴かぬ差に
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by tabigarasu-iso | 2005-08-28 16:34 | 随筆 | Comments(0)