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白髪の旅ガラス

新宿は鮫

 いつまで経っても都会人になれない田舎者が、首を痛くして見上げる高層ビルディングの乱立する新宿を、受講で疲れた帰路の湘南電車の車窓から眺める。よせば良いのに、大きな地震で倒れる恐れはないのであろうか、壊す時はどうするのであろうか、そんな心配をせずに居られない。

 あのような高い所で、何も感じないで働く人の気持は、どんなものであろうか。地震が発生した訳でもないのに、左右に静かに揺れる室内で、落ち着いた仕事が何故できる。そうとは知らないで昇った高所の客先では、一刻でも早く地上に戻りたく慌てて話を終えたものだ。

 もう一つ、新宿で心が落ち着かないことは、中年の居場所が見つからないことである。有名な〇〇〇前の待ち合わせ場所に立てば、背広姿は我一人。その場に間違って舞い降りた、異星人にしか見えない。

 そこで、逃げ込んだ居酒屋の筈が、眼を凝らして見れば、周囲は若い人ばかり。我等を除き、中年の客など他には居ない。ここでも異星人のようで、落ち着いて酒も飲めず、早々に退散したことを想い出す。こうした新宿を動物に例えるなら、静止して生きられない鮫である。
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鳥の巣を 想い出させる モダンビル
by tabigarasu-iso | 2009-06-18 23:51 | 随筆 | Comments(0)