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白髪の旅ガラス

霜降り

 夜露は、朝方の冷え込みで大気中に居場所が無くなり、仕方無く地表に降り立ち細かな雪に似た結晶を作った。いつもの季節より、半月程遅い初霜である。通勤車両のフロントガラスには、分厚い霜で化粧が施され、エンジンを始動し室内から温風を当てて溶かすまで落ちそうない。

 無理やり削ぎ落とす手もあるが、ガラスの表面を傷めるから止めにして、家から持ち出したポットの湯を、少しずつ掛ければ、見る間に霜が溶けて視界を確保できる。この手間を考慮し、自動車通勤の方は、幾らか早めに起きなくてはならない。

 ところで、霜が溶け易い場所とそうでない所がある。朝日の当らない駐車場では、いつまでも厚い霜が居座り続け、冷え切ったエンジンを動かしても暖房にはならない様子で、腕時計を見ながら忙しく煙草を吹かすドライバーを、バス停に並ぶ大勢の乗客が見守った。

 霜降り、肉の世界では有り難い代物で、滅多に味わう機会もないが、霜が降りたフロントガラスは、同じ霜でも有難くない。そんな愚にも付かない想像をしている間に、定刻を大幅に遅れた市内循環バスは、扉を開けた瞬間、人息で濁った空気を顔面に吹き掛けた。
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                霜と露 同じ仲間と 溶けて知り
by tabigarasu-iso | 2008-12-18 00:00 | 随筆 | Comments(0)