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白髪の旅ガラス

スズメバチ

 二階建ての農家の軒下には、縦二尺で直径一尺は楽にあるスズメバチの巣があった。誰も手の届かない所にあるから、幾らでも大きくすればよいものを、何年経っても増築した形跡が見えない。

 この春、屋根を修理することになり、屋根に上った大工は、間近でスズメバチの巣の様子を確かめた。一匹でも残っていれば、大工仕事の合間に屋根から転げ落ちること間違いなく、しばらくそっと観察したが、雀に荒らされた穴の周辺は静かで飛び立つものは何もない。そのことを下から見上げる家の主に告げた大工は、エイと一声発しそれを蹴落とした。

 その残骸を集め、男が竹篭に入れようとしたときのことである。縞模様も鮮やかなスズメバチが十数匹、いきなり巣の芯から飛び出した。予想もしない出来事で、男は巣を放り投げ手にしたほうきで身構える。

だが、蜂は男を攻撃することもなく、瞬く間にどこかへ飛んで消えた。仮に、刺された場所が悪ければ、命を落とす毒を持つ蜂から、攻撃を受けていたならと想像した途端、男の背筋に冷たい汗が流れる。

 安全に思えても、本質的に危険なものは用心して取り扱うに越したことはない。そのことを、巣を壊されながら復讐もせずに飛び去ったスズメバチに改めて教えて貰う里の春であった。


葉に隠れ 成長競う 梅小僧 
by tabigarasu-iso | 2005-05-26 20:25 | 随筆 | Comments(0)