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白髪の旅ガラス

影を慕いて

 暦の上では既に秋、そう思って慌てることもなく起きてみれば、窓越しに見える太陽は、真夏と変わらぬ輝きを保った光線を放ち、空調設備を嫌って自然に任せた寝室の開け放った窓へ、むんむんとする熱風を送り始めたから堪らない。

「遅くなって、御免。これから行こうか?」
 物言わぬ友に詫びながら問えば、先程まで腹を上に鼾をかきながら、すぐさまくるりと起き上がり、了解の合図に一声吠えるから恐れ入る。

 首に紐を着ける時間も惜しんで飛び出したものの、充分に焼けた舗道に足の裏を載せた瞬間、反射的に爪を立てて舗道との間に隙を作り、足裏を熱源から退避させたまま、少し考えた。
『このまま散歩に行けば、用は足りるかもしれないが、無事に帰宅できるか判らない。さりとて、散歩を止めれば、庭か家中で放尿することになろう。そんな勿体無いことはできないから、やはり爪を立てたまま進むしかあるまい』

 幸いにして、陽の当たる反対には、必ず影ができている。それが無いところは避けて、影から影へ伝い歩く忍びに成り切り、公園の樹木の下ではゆるりと憩い、低い塀の影では急ぎ足で渡り切り、一人と一匹、影を慕いて散歩を終える。

               ままかりに 箸置く間なく 西大寺
by tabigarasu-iso | 2007-09-19 22:57 | 随筆 | Comments(0)