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白髪の旅ガラス

難問

 突然、塩と地球温暖化の関係を、素人に判り易く説明してくれないかと言われ、コンサルの男は下を向いた。そこには磨り減った床が光るだけで、何のヒントもなかったが、何も知らない表情を、信じて疑わない相手に、見せる訳にはいかなかった。

 潔く、判らないと答えることもできるが、今後の影響を考慮すれば、男なりの答えを出すしかなかった。そこで、一呼吸を置くと、予め承知していた知識を掻き集め、さも探りあてたように手を打って、ゆっくり言葉に替えた。

「その昔、海水は真水であったそうな。それが蒸発して雨になり、陸地の塩素とナトリウムを溶かして、海に運んだ。海から蒸発するのは水だけで、海水中には塩素とナトリウムが結合した塩が、その濃度を増していった。塩を多量に含む海水は重たくて、海の底へと沈んでいった。それを埋める軽い海水が、南の海から移動して、そこから地球の温暖化が進んだそうな」

 自信たっぷりの回答に、難問を投げた相手は、口を開けたままであった。温室効果ガスが地球温暖化の源と言われている最中、その起源に遡って平然と説明する男に呆れたのか感心したのか、男の耳に相手の言葉は届かなかった。


梅雨時の 額に垂れる 霧と汗 
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by tabigarasu-iso | 2007-06-29 20:46 | 小説 | Comments(0)