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白髪の旅ガラス

置石

 列車の線路上に置かれた小石を、先が見えない鉄の車輪が踏み潰せば、振動と共に異常な轟音を響かせる。それに気が付いた乗務員は、十四両編成の車輌を用心深く停車させてから、車輪の点検を始めた。けれど、運転士と車掌の二人しか居ないから手間取り、乗客は車内に暫らく閉じ込められたままで待つしかない。

 その列車を待つ乗客は、予定時刻を過ぎてもホームに入らない列車を、皆で視線を揃えて線路沿いに探すが無駄と知り、再び顔を元の位置に戻した。数分過ぎてから、慌てた口調の駅員が置石で遅れる事情を知らせたが、余裕を持って整列を続ける人、慌てて携帯電話を掛ける人の二派だけで、クレーム派が居ないのが不思議である。

 その朝、時間に余裕があった男は、整列をしながら携帯電話の大声を聞いた。身なり立派な男の会話は、部下が相手と思われる偉そうな話し振りだが、相手に伝える音声が日本語になって聞こえてこない。それを聞く相手を気の毒に思いながら、同じ様なことが男にもないか、我が身を振り返った。

 こうして、他人の会話を評価する自分も誰かに観察され、時間潰しに利用されているかも知れない。緩んだ口元を引き締め、男は背筋を伸ばし、ゆっくり左右に目玉を転がして周囲の様子を窺った。右良し左良し、何処にも異常な視線なし。線路上の置石は許されないことだが、猪突猛進タイプの男には、己を客観的に見る余裕を持たせてくれたようである。
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               春の暖 風に飛ばされ 秋の冷
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by tabigarasu-iso | 2007-05-13 21:44 | 随筆 | Comments(0)