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白髪の旅ガラス

ふいに吹かれて

 祝い酒が続き弱った胃を労わる七草粥ですが、草の種類を全て言える人は少ないことでしょう。セリ、ナズナ、ハハコグサ、ハコベ、ホトケノザ、スズナそれにスズシロと辞書を横目に、漸く並べることが出来ましたが、それがどんな代物か想い描けたのは、セリ、ナズナとハコベくらいのものです。

 田舎育ちの人間でもこの有様ですから、良く調べもしないうちに、自然から離れて暮らすことの多い若い人を前にしても、物知り顔に尋ねる訳にもいきません。そこで、カブの若い葉がスズナ、ダイコンのそれがスズシロまで調べがついたものの、残る二種はどうにも判らない。従い、責任持てる範囲で尋ねるなら、春の五草を御存知かになりましょう。

 運が良ければ、身近な野原で、その幾つかと出会えますが、突風の吹き荒れる時には、油断なりません。言葉の数が少ない友と春の五草を探し、土手の端を歩いている時のことです。急変する風向きに注意しなさいと、友に声を掛けようとしましたが、その姿が突然見えなくなりました。

 横風で、土手の下に追い落とされながら歩み続ける友の顔は、年老いて白髪が増えた所為か、平然としながらも、狐に騙された道化師に似ています。すぐ脇には、悪臭の漂うドブ川があり、もう少し勢い良く飛ばされていれば、その中に落ちていたかもしれません。その片隅には、汚水を恐れない天然のセリが葉の色艶も良く、人に摘まれる恐れも無くて、豊かに群れておりました。
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                突風に 負けず花咲く 水仙め
by tabigarasu-iso | 2007-01-08 20:42 | 随筆 | Comments(0)