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白髪の旅ガラス

むく鳥

 早朝、雨音に一瞬たじろぐ相棒の尻を押し、いつもの散歩に出掛けた時のことです。頭上から降り注ぐ、騒々しい鳥の鳴き声に驚き、傘をどけて空を見上げました。辺りの電線という電線を、大群のむく鳥が占拠し、互いの間隔を規則正しく推し測り、雨に濡れているのです。

 鳥を題にした恐怖映画で観たような光景に魅せられ、先を急ぐ無関心な相棒に、少し待ってくれと声を掛け、やかましい声に耳を傾けてみました。
「どうするね、諸君。雨が止むまで、こうしていても仕方がなかろう。何処かの梢に避難しようじゃないか」
「いやいや、数羽ならともかく、かような集団だ。皆の動きを一致させ、彼の地に渡るには、ここで待つのが良かろう。明るくなり、雨足も弱くなって、視界も良くなりつつあるから、もう少し待て」
 
 耳の遠くなった相棒も、渡り鳥の会議を、幾らか理解したようです。雨で消えた自分の縄張りマークを探すのを止め、会議場に顔を向けると、フンと鼻で息をしました。その音が引き金になったのではないでしょうが、むく鳥の大群は、一斉に舞い上がり、誰が先頭か判らない、手で描く円になり、その形を上空で素早く変化させながら、予め定めた方向に舞って行くのです。

 後に取り残される仲間は、一羽たりともいません。崩れそうな楕円を、誰とも無く繕いながら、本能に刷り込まれた地図に導かれ、大群が幸福に暮らせる、彼の地を目指すのでしょうか。それにしても、これを率いるむく鳥のリーダーは、自ら舞いながら指示をするのですから、他の鳥にはない体力、能力それに愛情があるのでしょう。

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                草むらの 夜露に濡れて 秋の夜に
by tabigarasu-iso | 2006-10-25 21:02 | 随筆 | Comments(0)