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白髪の旅ガラス

秋の七草

 夜が明ければ起きて、日が沈めば眠り、夏が来ればキュウリに味噌を付けて頬張って、秋が来ればデンプンで腹が割れそうなジャガイモを茹でて喰い、冬が来れば塩辛いタクアンを胃に落とし込んで茶を啜る、自然の移り変わりと共に生きる時代がありました。それも、いつでも何でも手頃な値段で手に入るコンビニが当り前の現代では、読む人の少ないおとぎ話になりそうです。

 それを承知で、今の世代に秋の七草を問う、意地悪な中年が居りまして。本人の馴染みの無い草もありながら、習い覚えた種を確かめる悪い趣味は、なかなか抜けそうにありません。
『萩』とは、近くにありそうで意外とない草。
『ススキ』は、量は少ないが散歩途中でも会える草。
『桔梗』とは、高原に出向かないと平地では容易にお目にかかれない花。
『撫子』は、どんな姿か確かめたい花。
『女郎花』とは、誰が名を付けたか疑ってみたい花。
『藤袴』は、文字から想像の出来ない花。
『葛』とは、誰もが繁殖力に呆れながらデンプンに舌鼓を打つ草。

 これがその男の知る秋の七草の実態でして、想像の域を出ない草が半数以上ですから、若い方が知っている数は、更に少ないことでしょう。これも、自然から離れて暮らす生活の変化で、仕方のないことでしょうが、生きる力強さを徐々に失い、一度、自然が猛威を振るえば、簡単に薙ぎ倒されてしまう、脆さを感じます。

 野に遊び、嫌がるトンボの眼を回し、吸い込まれそうな高い空を見上げ、虫の音に起こされるまで時を忘れる、そんな野生の動物に一時でも戻りませんか。何も、遠くに出向く必要などありません。開発を免れた隣の空き地に、地位や年齢それに人間であることを忘れ、愛犬と一緒に寝転んでみれば、土の臭いに野生が一瞬蘇ることでしょう。
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                虫の音も 一つ二つの 頃が良い
by tabigarasu-iso | 2006-09-20 23:29 | 随筆 | Comments(0)