2006年 03月 12日
乾杯
「お疲れ様です」
互いに労い、息をするのも惜しんで缶を傾ける。心地良い香りを載せた苦味が、喉から胃に流れ落ち、長く留まることなく腸へと向かう。
そこから全身に拡散し、とりわけ脳の働きを活性化させ、プラス思考を後押しする。
「先の案件、我等が受注、間違いない。次の案件を狙い、提案書を頼む」
酔わなくても、全ての営業案件を受注とみなす人に、アルコールが入れば更に夢は膨らむ。
ところで、久し振りに結婚式に招かれ、乾杯の発声を仰せつかった。シャンペンの入ったグラスを目の前に、じっと我慢の顔が思い浮かぶ。
『早く、乾杯と言って頂戴』
皆が声には出さないが、腹の中で願っていること、間違いないであろう。
自己紹介を簡単に済ませ、新郎と新婦の両親の気持に触れ始めたが、長くなるからと途中で切り上げ、乾杯の発声に移る。その間、三十秒足らずであったから、誰にもストレスを与えなかったであろう。
「気持のこもった乾杯、有難う御座いました」
多くを語らないのが、良かったのであろうか。コンサル稼業としては、微妙な気持であった。
菫咲く 道の片隅 腰屈め