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白髪の旅ガラス

木登り

 枇杷の実がオレンジ色に変わり、頭髪を灰色に染めたばかりの爺様を呼んでいます。

「登れるものなら、ここまでおいで」

 樹齢の若い琵琶の木は、爺様が爺様になる遥か前、木登りの得意な子供であったことなど知りようがありません。

「見ていなさい」

 爺様の意気込みが聞こえたのでしょうか、枇杷の梢が少し揺れました。

「あなた、気を付けて」

 下で見上げる妻の大きな声が琵琶の木を揺らしたようです。

「あい、わかった」

 脚立から枇杷の木の幹に足を渡し、太目の枝を手で掴んでから、身体を移動し、熟した枇杷の実を剪定鋏で切り落としてあげました。

「まだまだ」

「そうね」

 爺様は樹上から、枇杷を待つ妻に言ったものです。


 見た目より 甘い枇杷の実 召し上がれ



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by tabigarasu-iso | 2018-06-05 06:05 | 随筆 | Comments(0)