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白髪の旅ガラス

フクロウ

 フクロウと言うものは、枝の上に座っているだけで気楽そうに見えるかもしれないが、そうでもないのだよ。万物が眠りに付く頃に目覚め、そこから働く夜行性になったのは、何の因果であろう。夜の静寂に包まれ、フクロウは何を思って狩りに行くのか。太陽の照る昼の生活に戻るべきかどうか。けれど、フクロウは太陽が嫌いであった。あまりにも強烈過ぎて、フクロウの視神経は耐えられない。それで、どうにもならない腹いせに、フクロウは昼の世界に住む奴らのことを罵ったものだ。真昼の雑木林に身を隠しながら、誰ともなく言い終わると不思議なもので、胸の中が晴れるようである。

 ところで、太陽がフクロウ族の敵になったのは、私が幼い頃のことであった。当時、わが一族も他の鳥類と同様に昼の世界で暮らし、好きな枝を自由に選んで停まり、枝の上からミミズや青虫など見付けては弄び、腹が空くと皆で仲良く分けて食べたものである。それに、われらは山鳥の雄にも負けないきらびやかな羽毛であった。また、自然と調和した無理のない暮らしは楽しく、他の鳥類と歌の交換会など催したものである。特に、われらの低音は心の奥底まで響き、今でも聞かせることはできるが、独り木の枝で暮らす淋しい状況では時を選ぶ。

 それにしても、どうした訳でわれらは他の鳥類から村八分にされたものか。皆で口を揃えて訴えたが、返ってきた返事は冷たいもので、有無を言わせず三日以内に他の森に行けとのことである。太陽のある間に姿を見せたなら、命は保証しないとも言う。従う必要などない、彼らに対して戦いを挑もうと主張したが、部族の長老は首を横に振った。
「皆の衆、良く聞いてくれ。フクロウ族は、何の謂れもない理由で、一方的に森からの退去を他の部族から強いられた。戦う手もあるが、相手は多過ぎる。最悪の場合には、部族の滅亡も考えられるから、仕方なく夜の世界に移り住むことにした」

 これを聞いた部族の誰もが涙を流し、長老の意見に従うことにしたが、私は納得が行かず、昼の世界に留まる。しかしながら、私の恋人は部族と一緒に夜の世界に移って行った。仲間の去った後、私は敵の暮らす昼の森へ侵入し、挽回の機会を探った。彼らが戦わずに勝ったことを喜んでいるかと思えば、その逆である。涙を流す鳩の群れに、鳩の長老はポッポと語った。

「皆の衆、フクロウ一族だけを夜の世界に追いやったが、悪意があってしたことではないのだよ。大空の彼方に住む偉大な太陽の命令であったから、仕方なかった。フクロウ一族と一緒に暮らすことは、仲間の死を意味することになると、強烈な光線で通告されたのだよ。昼を支配する太陽は、フクロウを反逆者にしたいようだ。余りにも一方的であったから、その理由を聞こうとしたら、鳩一族も昼の世界から追い出されたいのかと」

 長老の話を聞き終えた鳩の一族は、以前より激しく泣き声を上げる。ポッポ―、ポッポ―と泣きながら、若い鳩が羽根を振って叫んだ。
「これは太陽の策略だ。われら鳥類が平和に暮らしながら、科学を目覚ましく進歩させたもので、太陽は己の独裁が倒されるのを恐れている。取り分け、フクロウ族の頭は良い。太陽が燃え尽きる日も計算していたと聞く。それを武器に組み込まれては叶わないものだから、夜の世界へ追いやり、鳥類の結束力を無効にする策略に違いない」

 若い鳩の呼び掛けに心を動かされた鳩の群れは、太陽に向かい今にも飛び立ちそうである。その時、鳩の長老は若い鳩に言った。
「確かに、君の言う通りだが、それを知ったところでわれらに何ができる。他の部族、ツバメ、スズメ、ツルも同じことで、まとまって反逆したところで、今の太陽は勝てる相手ではなかろう。もう暫く、太陽の勢いが弱まる時期が来るまで待とうではないか」

 その時期は、なかなか来ない。やがて、待ちくたびれた鳩族は、平和の使いだと飼いならされ、今では太陽の言いなりになっている。

 こうして、鳩族の様子を確認してから、私は仲間の住む夜の世界へ入ってみた。そこには、我が子を抱き締めながら死んだもの、苦しみから逃れようとして互いに喉を食い千切ったもの、盲目となり餓死したもの、一羽として元気なフクロウは居ない。それでも、私は暗闇の中、手探りしながら恋人の名を呼んで探し歩いた。すると、私の声に気付いた恋人から返事があり、その声を頼りに近寄れば、彼女は既に視力を失っている。

「私の真心と死ぬ前に聞いた仲間の気持ちを、あなたに伝えます。私は、あなたと出会えて幸福でした。たとえ息絶えようとも、決して泣かないでください。私は、あなたの心の中に移るだけですから。それに、亡くなった仲間は、夜の世界へ追い込んだ太陽や他の部族も恨んではいません。ただ、太陽や私達の疑う心を恨むだけです」
 そう言い終えて、私の恋人は見えない瞳を閉じた。それからと言うもの、私は彼女の言葉を胸に、夜の静寂を破る低音でホー、ホー、ホーと鳴く。


 フクロウに 似ているような 僕の耳

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by tabigarasu-iso | 2015-12-15 12:08 | 小説 | Comments(0)