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白髪の旅ガラス

耳垢取り

 幼い頃は、自分で耳垢を取ることなど考えたこともなかった。また、それを家人に取って貰った記憶もないが、どうした訳か友人の母親に取り除いて貰った記憶だけがある。

 日の当たる縁側に僕を呼んで、おばさんは膝の上に僕の頭を載せた。最初の頃は気持ちが良くて涎も出たが、耳の奥に取り残した大物の垢を見付けてから、僕の耳であることなど忘れて、おばさんは耳垢を追う快感だけに酔ってしまったようである。

 逃げ出したくても耳の穴を人質に取られているから、大物が取り出されるまで我慢するしかない。何しろ、何年分もの耳垢だから、スプーン一杯にもなっていた。それをおばさんに見せて貰った僕は、これまで良く聞こえていたものだと自分でも呆れたものである。

 それから半世紀の月日は流れ、耳垢を取り除いてくれた友人の母親は、あの世で僕の母親に礼を言われ苦笑していることだろう。
「野良仕事に追われ、息子の耳垢取りの暇もなかった。随分、世話になったね」
「何、私は耳垢取りを楽しませて貰ったよ」

              盆迫り 母の想い出 夢枕
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by tabigarasu-iso | 2015-07-13 08:30 | 随筆 | Comments(0)