2015年 07月 13日
耳垢取り
日の当たる縁側に僕を呼んで、おばさんは膝の上に僕の頭を載せた。最初の頃は気持ちが良くて涎も出たが、耳の奥に取り残した大物の垢を見付けてから、僕の耳であることなど忘れて、おばさんは耳垢を追う快感だけに酔ってしまったようである。
逃げ出したくても耳の穴を人質に取られているから、大物が取り出されるまで我慢するしかない。何しろ、何年分もの耳垢だから、スプーン一杯にもなっていた。それをおばさんに見せて貰った僕は、これまで良く聞こえていたものだと自分でも呆れたものである。
それから半世紀の月日は流れ、耳垢を取り除いてくれた友人の母親は、あの世で僕の母親に礼を言われ苦笑していることだろう。
「野良仕事に追われ、息子の耳垢取りの暇もなかった。随分、世話になったね」
「何、私は耳垢取りを楽しませて貰ったよ」
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