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白髪の旅ガラス

赤坂の鰊ソバ

 氷雨の中、赤坂見付駅近くにある飲食街通りから十メートルほど奥に入ったソバ屋へ駆け込み、迷うことなく鰊ソバの大盛りを注文しました。
「決めるのが早いですね」
「ええ、前回の注文は盛ソバでしたから」
「そうでした。確か、盛ソバから鰊ソバに変更したのに、その変更が出来ませんでしたね」
「ええ、その時から次回は鰊ソバと決めていましたから」

 数カ月が経って実現した鰊ソバ、まずは汁を飲んでみます。
『昆布出汁が良く効いた醤油味の甘辛で合格』
 次にソバを掻き込んだものの、熱くて容易に噛めない。
『細い割には腰があって合格』
 
 休みながらソバを掻き込めば、鼻からも汁が滴り始めます。それをハンカチで始末して、一本もソバを残さず、椀の底が見えるまで汁を飲めば。
「流石、環境を配慮した食事マナーですね」
「いやいや、美味いものはもったいなくて残せないだけです」

 赤坂の鰊ソバには、乾燥海苔が一枚載っています。
「既に食べてしまいましたが、海苔の載った鰊ソバは記憶にありませんね」
「そうでしたか。そう言われてみれば、自分の山かけソバには摩り下ろした自然薯の上に生卵の黄味が載っていました」
「なるほど、載せた一品が赤坂らしい」
「値段も赤坂らしく」
「御馳走様でした」

 熱いソバ 俄に曇る 眼鏡かな
by tabigarasu-iso | 2014-11-29 12:30 | 小説 | Comments(0)