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白髪の旅ガラス

ヤモリの消えた窓から

 この季節、台所の窓ガラスには夜になると灯を頼りに小さな蛾が無数に集まり、ガラスに何度打ち当たって懲りない。それを知って、数年前まではヤモリが出没したものだが、腹を空かせた野良猫に捕獲され、今ではその残像だけが脳裏に残る。

 その野良猫の子孫は、数カ月前から家の猫になった。ヤモリの身体を吸収した細胞は、家の猫にも引き継がれている。そこで、家の猫の眼に映る光景は、ヤモリが見ているようにも感じてならない。

 窓ガラスを這い回ったヤモリは猫に変身して家の中に入り、家人が起きると寝床の傍で腹が減ったと鳴き、用を足して気分が良くなれば、家の中を走り回る。夜の間だけ蛾を追った当時に比べ、人の保護で食住には困らない。

 何の不満もないのだが、時として仲間のヤモリに会いたくなる。そんな時は、玄関の戸の前で正座して猫なで声を出す。すると、不憫に思った家人は、僕に付き添って外に出てくれる。

 家人を振り切り闇の中へ消えようか。一瞬、そんな思いが浮かんだが、闇に消えた後のことを考え、大人しく家人に従い家の中へ戻った。そこで愛らしく一声鳴けば、僕をヤモリと気付かない家人は、オヤツを出してくれる。こんな楽な生活はないではないか。そう、猫に変身したヤモリは言ったようだ。

 秋風に 夢から醒める 我は誰
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by tabigarasu-iso | 2014-09-01 20:15 | 小説 | Comments(0)