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白髪の旅ガラス

遅くなった祝い歌

 老人夫婦が姪の結婚式に出席した時のことである。姪から挨拶を頼まれ予め準備して式に臨んだものの、前の挨拶が長引き老人の出番はなくなった。

 めでたい祝いの言葉に歌、その日の内に披露しなくては気が済まない。帰路の車中は誰もが押し黙り通夜のようであったが、老人は結婚式で歌えなかった歌を歌っても良いか周囲の人に訊いてみた。

 誰も知らん顔をしている。老人は、どなたも異存ないようですので瀬戸の花嫁を歌わせて貰いますと言うと、練習の成果を見ず知らずの乗客に披露した。

 その時、車窓を見ると降車駅を既に乗り過ごしているのが分かる。それでも、老人は落ち着いて言った。

「乗り越してしまったようですから、もう一曲歌わせて貰えませんか」

 誰も異議は唱えない。

 老人が二曲目を歌い終えると、誰とはなしに拍手した。そこで、老人は暗記していた祝辞の最後の言葉を乗客に披露する。歌に祝辞、全て出し終えた老人夫婦は、失礼しましたと言い残して電車を降りた。車内は、老人夫婦の話題で笑顔に包まれたそうな。

梅の芽よ もう開いても 良いですよ


by tabigarasu-iso | 2014-02-28 00:00 | 小説 | Comments(0)