2013年 03月 11日
今更虎子
「ここに居ますよ」
そう言いながら、孤島に置き去りにされた人のようで滑稽さを感じた。
それでも、再び集金に来て貰わなくてはならないから申し訳ない。必死に叫びながら階下に転げ落ちないよう降りて行く。
「すいません」
そう言いながら玄関の戸を開け、庭に飛び出して新聞代金を手渡した。
「あら、猫を飼い始めたのですか」
後の濡れ縁に座った虎之助を見付けたのであろう。
「ええ、家の中には入りませんから、外でネズミの番をして貰うことにしました」
その礼に御飯を上げることにして、名前も付けたと伝えた。
すると、集金人も大の猫好きで家で何匹も買っていると言う。
「ありがとうございます」
そう礼を言われて妙であったが、何処で飼われようが猫好きに取っては同じことのようである。
そこに近所の情報屋が駆け付けた。
「この雌猫は、どの家でも餌を上げている野良猫ですよ」
「はあ、雌ですか」
今更、虎之助を虎子とは改名できない。
梅の花 慌てて咲いて 誰を待つ