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白髪の旅ガラス

今更虎子

 塀に埋め込まれた呼鈴を押したものの反応しないものだから、新聞の集金人は去ろうとしている。
「ここに居ますよ」
 そう言いながら、孤島に置き去りにされた人のようで滑稽さを感じた。

 それでも、再び集金に来て貰わなくてはならないから申し訳ない。必死に叫びながら階下に転げ落ちないよう降りて行く。
「すいません」
 そう言いながら玄関の戸を開け、庭に飛び出して新聞代金を手渡した。

「あら、猫を飼い始めたのですか」
 後の濡れ縁に座った虎之助を見付けたのであろう。
「ええ、家の中には入りませんから、外でネズミの番をして貰うことにしました」
 その礼に御飯を上げることにして、名前も付けたと伝えた。

 すると、集金人も大の猫好きで家で何匹も買っていると言う。
「ありがとうございます」
 そう礼を言われて妙であったが、何処で飼われようが猫好きに取っては同じことのようである。

 そこに近所の情報屋が駆け付けた。
「この雌猫は、どの家でも餌を上げている野良猫ですよ」
「はあ、雌ですか」
 今更、虎之助を虎子とは改名できない。

 梅の花 慌てて咲いて 誰を待つ
by tabigarasu-iso | 2013-03-11 08:04 | 小説 | Comments(0)