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白髪の旅ガラス

嘘の匂い

 静岡駅の改札を出て、とろろめしの店に入る。衝立の向うから、景気の良い話が聞こえた。
「息子の為にね、会社を創って置いたよ」
「ほう、凄いね」
「何、大したことはない。たった一億円の投資さ」

 その額を耳にしたところで、徐々に身体が衝立に向かい傾斜していく。すると、話し声が急に静かになった。
「大きな声では言えないが、見返りは期待出来ない投資だよ」
「どうして」
「苦労しない金は、身に着かないもの」
「なら、どうして投資なんか」

 そこからの話は、嘘の匂いがしてくる。
「隠居して、のんびりするのは面白くないじゃない」
「そんなものかな。羨ましいと思うが」
「いやいや、人生は常にギャンブルさ」

 どうやら、この男は人に聞かせることが楽しみらしい。目の前の相手だけでなく、衝立に隠れて見えない相手に対しても聞かせたいようである。急に馬鹿馬鹿しくなり、とろろめしを掻っ込んで立ち上がったものの、その男の顔は見なかった。

 とろろめし 引き立てるよな 不味い嘘
by tabigarasu-iso | 2012-09-14 07:48 | 随筆 | Comments(0)