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白髪の旅ガラス

沢庵

 立春を過ぎた頃になると、秋口に漬け込んだ沢庵の味が懐かしい。今では、一年を通して手に入るようになり季節感は薄れたものの、やはり寒い時期に旬を迎える沢庵は旨いものである。

 それには、想い出も加わるから尚更のことであった。大昔の冬場、大家族の胃袋を満たすのは、麦、米、小麦粉、味噌、漬物、芋、南瓜など、田畑で作った自家製のものばかりである。

 飯のオカズは、沢庵か白菜の漬物と決まっていた。商人から現金で買う目刺など高級品であり、その尻尾まで猫と争ったものである。それ故、漬物が嫌いな人は、オカズがなかった。

 幸い、自分は魚や肉より漬物が好物であり、大きな樽で漬けた旬の沢庵は、やがて酸っぱくなり、湯で塩を抜き油で炒めても好物に変わりない。だが、お袋の太い腕で漬けた沢庵、もはや食べることは出来なくなった。

 樽に張る 氷を割って 出す沢庵
by tabigarasu-iso | 2012-02-08 07:12 | 随筆 | Comments(0)