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白髪の旅ガラス

髪の冬仕様

 無駄口を叩く床屋が嫌で選んだ無口な床屋に通い二十年が経つ。口から出るのは、店に入る時の『いらっしゃいませ』、席に着いた直後の『いつものスタイルですか』、頭を洗う時の『痒いところはありませんか』、それに勘定を済ませた後の『ありがとうございました』だけである。

 ところが、今回の科白はいつもと違う。
「冬仕様にしますか」
 鏡を見ながら、黙って頷いた。

 余分なことは一切言わないが、肝心なことはタイミング良く言う。枕言葉ばかりで肝心な点に触れるまで時間が掛かり過ぎ、それが相手に伝わらないコンサルと知っての対応であろうか。

 二十年余り、自分の事を話す必要もなかった。客がコンサル稼業と知っている筈はない。仮に知っていても、サービスのスタイルを変更するようなことはないであろう。それだけに、床屋の新しい科白は胸に沁みた。

 血流の 固まるような 風が吹く
髪の冬仕様_d0052263_18305297.jpg

by tabigarasu-iso | 2012-01-07 18:31 | 随筆 | Comments(0)