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白髪の旅ガラス

カクレミノ

 蓑(ミノ)を知らない世代が大半を占めるようになれば、隠れ蓑の昔話など誰も振り向かなくなる。それを被れば、透明人間になれる優れた物語だけに残念なことだ。

 或る組織の門を入って直ぐ右手の植え込みは、雨を受けて葉を輝かせている。その根本のほうには、「カクレミノ」の掲示がしてあった。

 それは、小学校の低学年を過ごした分校で、雨が降り続け校庭で遊べない子供達を集め、先生が聞かせてくれた当時を想い出させる。

「あの植物の名前、知っていますか」
 昔の想い出に浸りたくて、用も無いに聞いてみたが、相手は気にも留めていない。

「カクレミノと言うものですよ」
 そうですかと言われて話は終わり、昔話は隠れ蓑の内側に消えた。

雲退いて 滴り落ちる 陽の光
カクレミノ_d0052263_20102969.jpg

by tabigarasu-iso | 2011-06-21 20:10 | 随筆 | Comments(0)