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白髪の旅ガラス

冬の小淵沢駅

 吸い込む息が胸に突き刺さる。平然とホームに立つ小太りで白髪頭に小さな帽子を載せた駅員に声を掛けた。
「失礼ですが、寒くないですか」
「はあ、今夜は昨夜より暖かいです」

 駅前の小さな食堂で、麦酒と熱燗を飲み暖めた身体が冷えて行く。それこそ瞬く間に酔いの醒めた眼で、同年輩の駅員に声を掛ければ、傍に居た山登り姿の男も会話に加わった。
「昼間の山に比べたら暖かいです」
「はあ、この寒い日に山登りですか」
「ええ、楽なコースです」

 寒風の吹く中、列車が数分遅れることを詫びる若い駅員のアナウンスが何度も流れる。
「そんなに詫びなくても良いのに」
 つい口にした。
「恐れ入ります」
 眼の前に居る白髪頭の駅員が頭を下げる。

 このままでは、役目とは言え申し訳ない。
「お若いようですね」
「いえ、もう直ぐ定年です」
「ウサギ年ですか」
「はい」
「なら、私より一つ先輩です」

 再び、山登りの男が加わった。
「私も同じ干支ですよ」
 失礼だが、大分先輩に見える。
「一回り上ですが」
 その一言で、ホームは暖かな雰囲気に包まれた。
冬の小淵沢駅_d0052263_17341385.jpg


声掛ける 温もり求めて 人は生き
by tabigarasu-iso | 2011-01-08 17:32 | 小説 | Comments(0)