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白髪の旅ガラス

渋柿

 渋柿の中にも、甘い柿が少しは混じっている。だが、それは渋柿だから甘くても甘柿ではない。その甘さは、甘柿より数段甘いようだ。

 それを多数の渋柿の中から見付け出すには、高い梢に登る身軽さが必要である。長い竹棒で叩き落としてから探す方法もあるが、その時は干し柿の準備で忙しく、甘い柿を探す暇などない。

 猿にも負けない身軽な少年であった頃、折れ安い柿の枝を苦にしないでよじ登り、枝先に実った柿の顔を見分けた。

 青い顔しているのは間違いなく渋い柿である。黒子が真中から外れているのもいけない。それこそ柿色の表皮に光沢があり、黒子が大きく真中にあって、その周辺に黒い斑点が透けて見えるものは、齧ってみる価値がある。

 甘い柿に遭遇する確率は、実に低いものであった。外れた柿は、表皮を少し齧っただけだから、そのまま枝に残して置き、やがて鳥の餌になるか干し柿にする。

 漸く手に入れた渋柿の中の甘い柿、まだ見付からないと仲間には言いながら、一人梢で齧ったものだ。あの甘さは、想い出も加わるから、今では味わうことは叶わない。

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渋柿を 蟹に投げない 猿を見て
by tabigarasu-iso | 2010-11-22 12:52 | 随筆 | Comments(0)