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白髪の旅ガラス

花いんげん

 標高七百メートル以上の高原でなければ、豆を付けない花いんげん。その豆の寸法は一寸もあるから、それが四個も入った鞘の大きさが想像できるだろう。また、鞘を下げる蔓も半端なものではない。

 大人が楽に潜れるアーチ型の棚がトンネル状に続く。その周辺を豆の蔓が幾重にも覆い、大きな葉が短い日照を懸命に受けている。その下を老いた父が自慢そうに歩く姿が想い浮かぶ。

「どうだ、こんな立派なものは他にゃねぇぞ」
「ああ」
 他に知らないから比べようもなく、次郎は曖昧に答える。
「風が吹き抜けねぇといけねぇ」

「どうして」
 そう言いながら、豆の育て方も知らない次郎は親孝行のつもり振り向いた。そこに父親の姿がある筈のないことを知りながら。その時、一瞬唸るような強い風が吹いた。
花いんげん_d0052263_061343.jpg


肉体に 父親宿る 時を知り
by tabigarasu-iso | 2010-10-04 00:01 | 小説 | Comments(0)