2010年 10月 04日
花いんげん
大人が楽に潜れるアーチ型の棚がトンネル状に続く。その周辺を豆の蔓が幾重にも覆い、大きな葉が短い日照を懸命に受けている。その下を老いた父が自慢そうに歩く姿が想い浮かぶ。
「どうだ、こんな立派なものは他にゃねぇぞ」
「ああ」
他に知らないから比べようもなく、次郎は曖昧に答える。
「風が吹き抜けねぇといけねぇ」
「どうして」
そう言いながら、豆の育て方も知らない次郎は親孝行のつもり振り向いた。そこに父親の姿がある筈のないことを知りながら。その時、一瞬唸るような強い風が吹いた。
肉体に 父親宿る 時を知り