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白髪の旅ガラス

ネクタイ

 ワイシャツにネクタイは、ラーメン屋に割り箸だと長年疑うこともありませんでした。それがクールビスなる温暖化対策の普及に伴い、暑い時期にはノーネクタイの常識に変わり、その扱いをスッカリ忘れた時のことです。

「今日の御都合はいかがですか」
「いつでもお越しください」
「写真を撮りたいのですが」
「・・・、ネクタイが必要ですね」
「はい。公表する資料に掲載するものですから」

 黒いネクタイは別として、会社にネクタイの予備など置いてありません。電話を受けながら周囲を見渡せば、感心にもネクタイを締めている者が一人。
「了解しました。ネクタイ姿で対応可能です」
「はあ、可能になりましたか・・・」
 先方の声が笑いを堪えているのが判ります。

「私のネクタイで良かったら」
「こちらはどうですか」
 自分のネクタイを差し出す仲間に頭を下げたところで、別の仲間がクリーニング済みのネクタイを見付けてくれました。こうして、ネクタイの要望に慌てた小生を助けてくれる仲間の存在、何とも有り難く胸の芯も締まる思いをしたものです。

ネクタイ_d0052263_693666.jpg


陽に焼かれ 大葉萎れる プラタナス
by tabigarasu-iso | 2010-08-31 06:10 | 小説 | Comments(0)