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白髪の旅ガラス

寒暖計になりたい

 その日の最高気温は、岐阜県の多治見市で39℃を超えたそうな。外に出て吸う息も熱く、裸足でアスファルトの上を歩くものなら、足の裏が火傷する。あたかも風呂の中を泳いでいるようで、風呂好きには堪らないかも知れない。

 日頃の風呂もカラスの行水と言われる速さだから、湯の中をゆるゆると歩く気持もなく、何ともだるい足を急かせて、冷房の良く効いた研修室に駆け込む。その勢いが出番を待っていた汗を押し出し、既に皺だらけのハンカチを顔から頭まで何度も往復させた。

 午後一番の講義は、受講者だけでなく講師も辛い。瞼の下がった面々を前にして、講師も己の瞼が下がらないことを祈るばかりである。だが、その日はいつもと違い、冷たさを通り越した寒波が研修室の後方から襲い、半袖の両腕に鳥肌が立ち始めた。

 腕を交互に摩擦しながら講師は自分に近い受講生に聞く。
「大丈夫ですか」
 何が大丈夫か判らなくても講師の質問に否とは言えない。
「ええ」
 そう言いながら、受講者は腕を寒そうに摩っている。

 勘違いを知った講師は詫びながら。
「失礼しました。冷房が強過ぎるのではないかと訊いたのですが」
 今度は周囲の受講者が声を揃えて。
「大変寒く、居眠りもできません」
 これには、講師も苦笑いするしかなかった。それにしても、外の灼熱と室内の寒波には、寒暖計に変身しなければ、聞くも話すも務まりそうにない。

寒暖計になりたい_d0052263_1172615.jpg


熊蝉も 暑さを避ける 昼寝かな
by tabigarasu-iso | 2010-07-24 17:33 | Comments(0)