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白髪の旅ガラス

残雪

 関ヶ原を過ぎ米原に入れば、夕陽を受けて白銀が輝く。山国で育った者には珍しい光景ではないが、それまでの風景と掛け離れた視界に魅せられてしまう。

 都内で打合せを済ませて新幹線に飛び乗り、いつしか灰色の街並みから転じて彦根の雪景色へ。その日の内に苦も無く移動できる便利な世にあり、心休まる瞬間は、どこまでも続く山並みを車窓から眺めている時であろうか。

 数年前に購入した雪道用の短靴を履き、勇んで彦根駅を降り立ったものの、既に歩道の雪は溶けて無くなり、スリップ止め用の金具が徒に鳴るばかり。そこでわざわざ路肩の残雪を踏み締め、還暦の老人から童心に戻る。

 その昔、朝陽を受けてチッチッと囀る雀に起こされ庭に出れば、厚い雪の布団が蔵の屋根を包み、柿木の小枝にそそりたつ見事な薄い雪の壁を見て、すぐさま臨時休校を確信したもの。朝飯を急いで食って庭に飛び出し、雪掻きの手伝いを終えれば、後は自由な時間が待っている。

 米俵の蓋に馬の尻尾から拝借した長い毛を輪にして、引くと輪が締まるように細工してから、その蓋に何個も結び付けた後で米を撒き、雀が罠に掛かるのを隠れて待つ。一羽も捕獲したことはなかったけれど、何とも楽しい待ち時間であった。残雪は、それを想い出させてくれる。

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一時の 栄華映して 残雪
by tabigarasu-iso | 2010-02-12 17:10 | 随筆 | Comments(0)