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白髪の旅ガラス

妻恋坂

 誰が名付けたか知らないが、ロマンチックな呼び名の坂がある。地下鉄は銀座線の末広町駅を出て湯島に向かう坂、それが妻恋坂と知ったのは五年も通った後だった。

 故郷の名前に良く似た坂に親しみを覚えて立ち止り、誰か知った顔はないか振り返る。それが愚とは判っていても、そうしたくなる気持ちは抑えられない。

 故郷の名の由来は、国を離れた旅人が人里離れた山奥で遠くに残した妻を思い出すほどの寂しさに耐え切れず、ああ吾が妻の恋しきことと詠ったことからだとか。

 この坂を妻恋とした謂れは何であろうかと思案しながら、坂を上って裏通り入った。そこには、オフィスビルとは趣を異にする派手な色彩のホテルが立ち並び、一時休憩の料金が表示された入り口は狭く、並みのホテルではないと悟る。

 ISOマネジメントシステム審査では、規格要求と実態の整合を適合とし、不整合は是正しなければならないが、妻恋坂と呼ばれながら利用目的の異なるホテルを見付け、これこそ不適合の典型と呟いたものの、是正処置はどうしたものか。

妻恋坂_d0052263_22145694.jpg


のぞみ増え ひかり疎らに こだま待つ
by tabigarasu-iso | 2010-01-29 22:15 | 随筆 | Comments(0)