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白髪の旅ガラス

場違い

 満席に近い車内の熱気で曇った窓ガラスの向こうには、紅葉の終わりを見ることができる。温泉にでも行くのであろうか、色鮮やかな服装をした団体客の賑やかな談笑をやりすごし、いつもの背広姿で一人静かに窓側の席に座り缶麦酒を飲む。

 ゆっくりと車窓からの眺めを楽しむ一人旅のつもりであったが、団体客は既に宴会の雰囲気に浸り、周囲を無視した痴話話が嫌でも耳に入り込み、それを許してくれそうもない。隣の席の女性も、通路を挟んだ席の仲間とつまみを交換しながら静かな宴会に入ったから、こちらの方が場違いな人に思われてきた。

 そう思うといつもより酔いが早く、一缶飲み干したところですっかり酔ってしまう。隣の女連れは、次々と麦酒の缶を空にしながら少しも酔った振りを見せない。前の席の大半を占める団体客は相変わらずだから、こちらと飲み方の差が歴然としてきた。

 一人だけ取り残された宴会列車の片隅で、雑音を気にせずに晩秋の車窓を楽しむのも良いものである。やがて賑やかな団体と隣の女連れが降り、車内は悪夢から醒めた男独りになった。床にこぼれた酒は、先程までの宴会が事実であった証で、一人取り残された車内に嫌らしく漂う。そこから先は、誰にも邪魔されずに晩秋を独占する夢のような貸しきり列車になった。

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晩秋の 冷たい雨は いつか雪
by tabigarasu-iso | 2009-12-09 00:06 | 随筆 | Comments(0)