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白髪の旅ガラス

赤坂の鰊ソバ

 氷雨の中、赤坂見付駅近くにある飲食街通りから十メートルほど奥に入ったソバ屋へ駆け込み、迷うことなく鰊ソバの大盛りを注文しました。
「決めるのが早いですね」
「ええ、前回の注文は盛ソバでしたから」
「そうでした。確か、盛ソバから鰊ソバに変更したのに、その変更が出来ませんでしたね」
「ええ、その時から次回は鰊ソバと決めていましたから」

 数カ月が経って実現した鰊ソバ、まずは汁を飲んでみます。
『昆布出汁が良く効いた醤油味の甘辛で合格』
 次にソバを掻き込んだものの、熱くて容易に噛めない。
『細い割には腰があって合格』
 
 休みながらソバを掻き込めば、鼻からも汁が滴り始めます。それをハンカチで始末して、一本もソバを残さず、椀の底が見えるまで汁を飲めば。
「流石、環境を配慮した食事マナーですね」
「いやいや、美味いものはもったいなくて残せないだけです」

 赤坂の鰊ソバには、乾燥海苔が一枚載っています。
「既に食べてしまいましたが、海苔の載った鰊ソバは記憶にありませんね」
「そうでしたか。そう言われてみれば、自分の山かけソバには摩り下ろした自然薯の上に生卵の黄味が載っていました」
「なるほど、載せた一品が赤坂らしい」
「値段も赤坂らしく」
「御馳走様でした」

 熱いソバ 俄に曇る 眼鏡かな
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by tabigarasu-iso | 2014-11-29 12:30 | 小説 | Comments(0)

氷雨Ⅲ

 放って置いても間もなく散ることが定めの紅葉、その止めを刺す氷雨の非情に呆れながら、傘で受けとめても安心させず、直ぐに回してはるか遠くまで飛ばす。

 それでも、ズボンの裾にまとわりつく氷雨は幾らか残っていた折り目を消した。そればかりか、水溜まりを避けて歩いても氷雨は革靴の底から這い上がり、靴下を濡らして指先まで脅かす。

 予測した通り、定刻から数分遅れたバスに乗り込む。人の息で濁った車内はエアコンが良く効いて温かく、氷雨に包まれ冷えた全身をゆっくり溶け込んで行く。

 バス停から駅構内まで駆け込み乗り込んだ電車の後部座席では、静寂を破る話し声が絶えない。そのうちに終わるだろうと思いながら耐えたが、若い男女の会話は黙って降り続ける氷雨より寒かった。

 耐え難き 冷たい会話 氷雨泣き
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by tabigarasu-iso | 2014-11-27 09:00 | 随筆 | Comments(0)

 居酒屋兆治と言う高倉健さん主演映画のラストシーンでは、「人が思うことは誰にも止められない」と言う科白があるらしい。当り前の科白だが、言う場面や言う人によっては心に響く。

 このところ、そんな高倉健さんを偲ぶ追悼番組が跡を絶たない。驚くことに、政治的な交流が途絶えている中華人民共和国でも、テレビで三十分間も放送されたと言うから、政治家の方にも高倉健さんの寡黙な外交術を学んで欲しいものである。

 自分も居酒屋兆治の映画を数回観ているが、高倉健さんの科白までは殆ど覚えていない。それより、寡黙で世渡り下手な人間が本心を隠して生きる姿に何処となく共感した覚えがある。

 ところで、高倉健さんとは正反対な役を演じる渥美清さんのフーテンの寅さんも良い。御両人とも役柄でしか知らないが、私生活では当然のことながら映画の役とは別な人間であったことだろう。

 枝先に 遺してあげる 柿一つ
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by tabigarasu-iso | 2014-11-25 18:30 | 随筆 | Comments(0)

炬燵で猫と丸くなる

 勤労感謝の日の振替休日、朝から曇り空に遮られ昼になっても太陽光は地上に到着することが出来ません。太陽から光を貰えない大気は薄ら寒く、近場でオープンした大型店舗まで歩いて行こうか迷うところです。

 冷え込んだ居間の真中に置いた炬燵のスイッチを入れ、新聞を読みながら熱いコーヒーを飲むと身体の芯から温まることが出来ましたが、その一面には長野北部地震で倒壊した家屋の写真が載っていました。

 専門家の意見では、活断層の移動から生じた地震に間違いないとのことですが、原因は分かっても倒壊した家は元には戻りません。余震が続く中、長年住み慣れた屋敷を離れた方は、避難先で何を思うことでしょう。

 それに比べれば、冷え込んだ居間とは言え、炬燵で猫と一緒に丸くなることが出来る状況は有り難いことです。ただ、長野北部と同様、近くに活断層がありますから、何もせず居眠りしている訳には行きません。

 犬小屋に 入って眠る 猫も居て
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by tabigarasu-iso | 2014-11-24 22:00 | 随筆 | Comments(0)

夢の車

 これまでの自動車は、ガソリン、天然ガス、液化ガスをシリンダーで瞬間的に燃やして、ピストンの往復運動を回転運動に替えて動力を生み出すものですから、燃料を燃やした後に排気ガスが大気へ当り前のように放出されていました。

 燃料になる化石燃料には何れ枯渇する宿命にあり、放出されるガスは大気を汚染し続け、それを人間は己の仕業と諦めて吸い続けているのです。けれど、水素を燃やして走る車は無限に存在する水素が燃料ですから枯渇する心配はなく、放出されるものは水素が酸素と結合した水だけで、道路が水で汚れる他は何の問題もありません。

 そんな夢のような自動車が発売されることになりましたから、それほど車好きでなくても一度は乗ってみたいと思います。しかし、七百万円を超す値段には諦める他ないようですが、どうした訳か国が二百万円もの補助金を出すことに。それでも、五百万円は自分で用意しなくては手に入りません。

 それほどの大金を掛けても、殆ど駐車場に停めて置くことが多い人には宝の持ち腐れでしょう。夢のような車が販売されるのは結構なことですが、大半の人には夢のままで終わりそうですね。

 夢のよう 煙出さない 無縁カー
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by tabigarasu-iso | 2014-11-23 21:00 | 随筆 | Comments(0)

自己宣言

 どんなに食べて飲んでも太れなかった体質から、少し食べても腹の周囲に脂肪が溜まる老人になりました。太れば貫禄が出て良いと思っていましたが、どうやら思い過ごしのようです。

 血液中のコレステロール値が上昇し、血流がスムーズに行かないばかりか弱い個所が破裂する可能性が高まり、定期的に薬を飲むようになりました。また、これまで何十年も同じ体型であったものが変化して、衣替えの度に着られない衣類が増えています。

 同じように、かつては一合位の酒では酔わなかったものが、そうとは気付かず杯を重ねれば直ぐに酔ってしまう。そのまま寝てしまえば良いものを、しぶとく荒唐無稽な世界に溺れ、そうとは知らない相手に余分な言動で迷惑を掛けることに。

 そこで、只今から生活の基準を変更することに決めました。どんなに腹が減っても、御飯は椀に一杯を上限とし、どんなに楽しい宴席でも酒は一合を上限とします。従い、無理に勧めることは、出来ることなら謹んで頂きたい。

 コート着て 手袋嵌めて さあ出陣
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by tabigarasu-iso | 2014-11-21 20:00 | 随筆 | Comments(0)

想い出は大切に

 冷たい風から逃れて炬燵に入れば身体の芯から温まり、やがて瞼が自然と下がる頃に浮かぶのは過去の想い出が大半です。今日の反省や今後の予定が浮かぶこともありますが、それは書き記すに値しないことばかり。

 想い出に浸る瞬間の心地良さは、同窓会や同級会に参加する動機になるようです。暇に任せて会場に足を運べば、昔の面影を頼りに会話も弾み、何度も乾杯した挙句にアルコールが己の定量を越すことに。

 アルコールが過ぎれば饒舌になり、互いに好きなことを言い放題になります。それが聞く人に有益な内容であれば問題はありませんが、相手の気分を壊す内容ではいけません。

 こうなると、アルコールも危険ドラッグと同じ位に危険な代物になります。懐かしい想い出も、無駄話の反省と共に消してしまう。そんな危険性がありますから、楽しい会話はアルコール抜きが良いようです。

 友来る 会話のツマミ 酒少々
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by tabigarasu-iso | 2014-11-20 12:00 | 随筆 | Comments(0)

認知症の認知

 認知症が認知されたのは、十年前のことです。それまでは、痴呆と呼ばれていました。認知症は、後天的に知能が低下した状態を言い、記憶力が衰え、自分が何処に居るか把握することが出来なくなる他、人格変化も起こるようです。 
 認知症は、誰でも発症する可能性があり、発症したなら誰かに支援して貰わないと生きることが難しくなりますから、認知できる間に予防策や症状の特徴を予習しておきましょう。
 加齢と認知症によるもの忘れには、それぞれ違いがあります。体験した一部を忘れるのは加齢、全てを忘れるのは認知症。たびたび忘れるのは、加齢ですから仕方がありません。
 もの忘れの自覚があるのは加齢、自覚がないのが認知症ですから、これまで一度ももの忘れなどしないと豪語する人は限りなく後者に近い人です。忘れ物は探して発見したいもの、その気持ちがあれば加齢によるもの忘れですが、誰か盗ったとか他人の所為にするようですと認知症に間違いありません。
 ところで、認知症の原因は何でしょう。脳の委縮や異常なタンパク質が脳に溜まること、脳の神経細胞が死ぬことで、脳の認知機能が低下するようです。原因によって発症のパターンも幾つかあるようですが、アルツハイマー型認知症と脳血管性認知症を理解しておきましょう。
 アルツハイマー型認知症は、もの忘れから始まり、段取りが立てられない、季節に合った服が選べない、薬の管理が出来なくなるようです。また、脳血管性認知症は、脳梗塞や脳動脈硬化などで脳の神経細胞に栄養や酸素が供給されなくなり、神経細胞が死んでしまい、神経のネットワークが壊れるものですから、原因と結果が明確な認知症と言えるでしょう。
 何れの認知症にしても、歯痛や風邪の治療に自ら出掛けるような訳にはいきません。周囲の人が当人の知能の低下に気付いて治療の場を提供することから、欠けた能力を補うよう優しく日常生活を支援することが必要です。

 酔い醒めて 相手も酔った ことを知り
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by tabigarasu-iso | 2014-11-19 09:00 | 随筆 | Comments(0)

モミジの影

 モミジは紅葉と頼みもしないのに変換される
 紅葉狩りの写真と言えば艶やかなものばかり
 それが竹藪に枝先を伸ばしたモミジの影とは
 どんな色か想像させる黒の世界に心打たれる

 秋晴れに 布団曝せば 背伸びする
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by tabigarasu-iso | 2014-11-18 09:00 | | Comments(0)

松島の紅葉

 ライトアップされた姿が水面に映る。
 何とも言えない艶やかな紅葉だった。
 己の姿に見惚れている間に風が吹く。
 落とされても良いよう写真に遺すか。
 
 昼の酒 思いの外に 我忘れ
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by tabigarasu-iso | 2014-11-17 09:00 | 随筆 | Comments(0)