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白髪の旅ガラス

サクランボ

 その昔、坂道を上り切った庭の片隅に大きなサクランボの木がありました。夏が近づくと、枝先には赤や黄の色鮮やかなサクランボが実り、木登りの得意な子供が登って木の下で待つ幼子に落としてあげたものです。

 下から見上げれば小さな実でも、手に取れば意外に大きく、赤くなくても甘いこと。味見のつもりで幾つも平らげ、下で待つ幼子に文句を言われたものです。

「ずるいぞ」
「甘いかどうか、俺が確かめてから」
「俺にも確かめさせろ」
「ほらよ」
「甘いじゃねぇか」

 その大木、坂道を登り切れないトラックのウインチを掛ける相手に使われ、何度も根元を揺さ振られた所為で枯れてしまいました。それから半世紀、サクランボの大木があったことなど皆忘れ、スーパーで買い求めた品に舌鼓を打つのです。

 サクランボ 登って喰った 子も翁
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by tabigarasu-iso | 2014-06-30 00:00 | 小説 | Comments(0)

評価される審査員

 審査員は、審査先の仕組みが基準から外れていないか審査します。その審査員が審査手順から外れていれば、適切な審査結果は期待出来ません。そうならないよう、審査員の研修が年に数回実施され、数年置きに審査現場で審査員が他の審査員を評価する審査機関があります。

「あなたの話し方は早過ぎますな」
「はあ」
 ゆっくり喋ったつもりでも、審査員を評価する審査員の評価は芳しくありません。素直に軌道修正したいところですが、審査相手には理解されていますから、敢えて軌道修正はしない。

 やがて審査の終了会議、審査の結論を液晶プロジェクターで映し出し、大きな声で相手の顔を見ながら、いつものペースで説明した後で、審査員を評価する審査員にも話をして貰いながら、こちらも評価してみました。

 確かに、話し方はゆっくりですが、言っていることが良く分かりません。審査先の方も、義理で頷いているのが分かります。そこで、審査の成果があったか否か、自分が司会進行役に回り、終了会議に参加した方のコメントを貰うことにしました。

 その内容は言えませんが、不明な点を質問する方、持論を展開する方、有効であった点を挙げる方、今後の対処方法を説明する方と盛り上がります。終了会議を終えてから、審査員を評価する審査員が言いました。
「あなたの審査を邪魔したようですな」
「いいえ、そんなことはありません。お蔭で良い審査になりました」

 窓ガラス 小さな雨が 落ちますな
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by tabigarasu-iso | 2014-06-29 00:00 | ISOマネジメント | Comments(0)

緊急事態の想定

 2011年3月、大きな地震が陸地に近い太平洋で発生した。地震の揺れで発生した大きな津波が陸地に押し寄せ、多くの人を飲み込んだ。また、原子力発電所も電源を飲み込まれて冷却機能を失った原子炉は、大量の放射線を大気に放出し、融けた核燃料は炉の底から落ちた。
 
 これは、大地震が原因で生じた沿岸部の緊急事態であり、今も悪影響を与え続けている。こうした緊急事態は、発生する前に想定していたものの対策を取ることはなかった。そのことを反省し、大きな防波堤を作ろうとしているが、海の見えない沿岸部に疑問を持つ人も多い。

 1996年に発行された環境ISOでは、緊急事態を想定し、準備と対応の手順を確立し、実施し、維持することを要求している。この要求を国や東京電力が満たしていたなら、人的及び物的被害は遥かに少なくなっていたかも知れない。

 ただ、どこまで緊急事態を想定して備えるかは、組織の規模や経済的な理由で判断に迷うところである。例えば、日頃出入りするトラックのエンジン部分から出火して、運転席から荷台の積荷まで延焼する緊急事態の想定は難しい。いずれにしても、対応のレベルは別として想定だけはして置く必要があるだろう。

 紫陽花に 見惚れる猫の 顔優し
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by tabigarasu-iso | 2014-06-28 00:00 | ISOマネジメント | Comments(0)

無差別攻撃

《只今新宿、八時には駅に着きます》
《分かりました。迎えに行きます》
 暫くしてから再びメールが届く。
《駅前ではなく、コンビニの前で待っています》
《分かりました》

 予定より十数分遅れて駅に着き、コンビニ前の道路で車を見付けた。
「ありがとう」
「随分待ったわ」
「事故があって」
「フーン」

 車の屋根に気付いた男は、何も知らない女に尋ねる。
「何か屋根に落ちているぞ」
「あら、そう。随分と大きな音がしていたから」
「鳥の糞だな」
「フーン」

 そう感心してから、女は男の頭に何か異物を発見した。
「何か異臭を感じない」
「もしかしたら」
「そう、想像通りのものよ」
「頭に来たな」
「いいえ、頭に落ちたのよ」

 ムクドリの 落とす爆弾 無差別さ
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by tabigarasu-iso | 2014-06-27 00:00 | 小説 | Comments(0)

カネが目当て

 原子力発電所の原子炉から放出される放射線を避けて避難している人に対し、環境相の言葉は本人が撤回し現地で謝罪したようだが、それで済む問題ではなかろう。

 そもそも、腹にない言葉は出ようがない。放射線から避難している人もカネが目当てだから、カネさえ渡せば文句は言わないだろう。郷里を追われ不自由な暮らしを余儀なくする人の心身の疲れ、それもカネを渡せば消えてなくなると言う、何とも人を馬鹿にした発言である。

 例え、謝罪のパフォーマンスを見せても腹に蓄えた毒は消えない。潔く、環境相、国会議員を辞職するべきである。国策で導入した原子力発電所、地震が契機とは言え、原子炉の損壊で放射線が飛散した責任は、行政側の責任でもある筈だ。

 そんな基本的なことを忘れている人には、議員の力量はないと言える。こんな議員を選んだ人は、次の選挙では責任を取って貰いたいものだが、その前に本人が政治家を辞めるべきであろう。

 ムクゲ咲く 一つ二つと 切りもなく
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by tabigarasu-iso | 2014-06-26 00:00 | 随筆 | Comments(0)

野次馬

 都議会で女性議員に対する男性議員の野次馬が話題になっています。議会での野次馬には慣れていますから、何で話題になるのか訝しく思いニュースで確認してみれば、若い女性議員に対し結婚しなさいとか、男性議員には関係ないことに興味本位で騒ぎ立てたことだと分かりました。

 野次馬の語源は、歳老いて役に立たなくなった馬や御しがたい馬を指すようです。破廉恥な発言をした男性議員は未だ若いようですから、御しがたい馬それに鹿も加わることになるでしょう。

 一方、安倍総理大臣の国会答弁では、野次馬が発言すれば答弁を中止することがしばしばです。余りにも中断する場面が多く、野次馬の肩を持つ訳ではありませんが、少々過敏ではなかろうかと思っていました。

 今回、ニュースにまで大きく取り上げられた都議会の野次馬に対し、後で反省を求めるのは当然ですが、自分に向けた野次馬発言を聞いた時、安倍総理のように聞き流さず反撃することも必要ではないでしょうか。

 品のない 議員選んだ 人はだれ
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by tabigarasu-iso | 2014-06-25 00:00 | 随筆 | Comments(0)

沖縄の慰霊の日

 1945年6月23日、戦禍にまみれた沖縄で組織的な戦闘が終了した日です。それから69年が経ち、戦争を知らない世代が多数を占めるようになりました。けれど、二度と同じことは繰り返さない決意の日にしたいと思います。

 偶然にも、6月23日は娘の誕生日。沖縄の慰霊の日に誕生した娘に電子メールで祝いの言葉を送り、娘の健康を望むと同時に戦争の無い世界を願いたいと思います。

 ところで、組織的な戦闘に参加していた自分の父は、酒が入ると戦地の話をすることがありました。残念なことに今は他界していますから、爺様から戦地の話を娘に聞かせることは出来ません。

 替わりに父親の自分が当時を想い出し、誕生祝いに話して聞かせましょう。それには、もう少し戦地の話を詳しく訊いて置けば良かった、そう思います。

 その話 訊いて置くのは 今ですね
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by tabigarasu-iso | 2014-06-24 00:00 | 随筆 | Comments(0)

正しい審査

 多かれ少なかれ、審査員が目指すのは、審査先に有効であったと認めて貰える成果ではないでしょうか。では、何を持って有効な審査と言えるのか、その点を整理する必要があります。

 有効な審査の考え方としては、社員の意識を改め高めるもの、仕組みの弱点に気付かせるもの、指摘やコメントの一部を実行すればコスト削減や売上増が見込めるものなど、審査の費用を差し引いても残る点が多いことではないでしょうか。

 社員の意識を改め高める審査は、社員にインタビューしなければなりません。
「仕事を進める中で、課題を幾つか挙げてください」
「環境問題ですか」
「いいえ、環境に拘らず、仕事上の課題です」
「立上げ時のロスが多くて」
「そのロスを少なくすることが出来れば、何が、どうなりますか」
「そうですね。原材料とエネルギーの無駄がなくなり、コスト削減になります」
「では、立上げロスを抑制することで省資源、省エネが可能と言うことですね」
「はい」
「それは、環境ISOの管理項目ですか」
「いいえ」
「管理項目に出来ますか」
「はい」

 仕組みの弱点に気付かせることを意識して、審査員は教育訓練の記録を見せて貰いました。
「良く教育を実施されていますね。この記録に記載された方を呼んでください」
 緊張した社員に、審査員は優しく尋ねます。
「教育の目的は何でしょうか」
「改訂された手順書の内容を覚えることです」
「そうですね。では、その手順書は何の為にあるのですか」
「さあ、分かりません」
 社員に退席して貰った後で、審査員は部門責任者に尋ねました。
「ところで、この手順書は何の為のものでしょう」
「・・・」
 そこで漸く、部門責任者は教育の仕組みの弱点に気付いたのです。こうした審査が展開されるなら、その審査は有効であり本来の審査と言えるのではないでしょうか。

 眠り猫 頭上走るは 鼠かな
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by tabigarasu-iso | 2014-06-23 00:00 | ISOマネジメント | Comments(0)

経年変化

 永遠に変化しないもの、この世には少ないものです。その稀な例に金がありますが、量も僅かなものですから、量も多く酸化し易い鉄に比べて値段が張るのでしょう。

 和室には、障子や襖それに畳が不可欠です。これらの材質は紙や藁ですから、金のように変化しない訳には行きません。また、雨や湿気に曝されて、劣化していくのは仕方のないことです。

 真新しい襖に胸を踊らせてから二十数年、糊の跡が表面に浮き出て格子の模様となりました。その裏を見れば、裏紙の落ち葉の如く剥がれ落ちているのを認め、漸く張り替えを決意したのです。

 専門業者が早朝に引き取り、その日の内に張り替えの済んだ襖が戻る。それは、出て行った時とは別物になりました。裏紙を確かめてみれば、崩れ落ちる心配はなさそうです。こうして、綺麗に生まれ変わった襖の前で正座すれば、経年変化のことなど忘れてしまう。人とは、そんな動物のようです。

 もう夏と 暦に言われ 梅落ちる
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by tabigarasu-iso | 2014-06-22 00:00 | 随筆 | Comments(0)

率先垂範

「レジ袋は必要ですか?」
「結構です」
 それを見守りながら、箸は胸ポケットに差し込めば良いとして、缶ビールとパンは手に持ったまま歩くのだろうと思いました。

 ところが、何やら胸ポケットから取り出し大きく広げて袋にすると、購入した品を慣れた手付きで難なく入れたのです。
「マイバックでしたか」
「ええ、いつも家のかみさんが持たせてくるのです」
「はあ、環境に熱心な奥さんですね」
「いやいや、レジ袋を下げるのは、恰好が悪いと言うのですよ」
「はあ」

 こうした遣り取りは、二人合わせて百三十才を超える環境ISO審査員のこと。確かに、六十才過ぎた男が二人揃ってレジ袋を振ら下げて歩くのは、見た目に良くはありません。それを承知で、夫の出張時にマイバックを用意した奥さんの配慮には頭が下がります。

「どんな理由があるにしても、旅先でのマイバックは素晴らしいことです」
「いやいや、そんな大それたことではありません。僕のことを愛しているからですよ」
 何と応えて良いやら迷った挙句、率先垂範の先輩に頭を下げる旅先でありました。

 そば屋でね カツ丼頼む 通の顔
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by tabigarasu-iso | 2014-06-21 00:00 | 小説 | Comments(0)