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白髪の旅ガラス

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あやつり人形

 手、足、胴体、頭に紐を着けられた人形、それを生きた人の如く操るには技が要る。趣味なら兎も角、人前で芝居を演じて飯が食えるようになるのは容易なことではない。

 一人前の人形師になって数十年になる。風雨に曝され寒暖に耐える地方巡業が身体に厳しくなった時、いよいよ現役を退くことにした。

 生まれ故郷に小さな棲みかを構え、縁側に座り拡げた新聞紙の上で足の爪を丹念に切る。切る人の思うようには跳ばず、空き放題に弾ける爪を紙上に戻した。

 そんなものかも知れない。人形を操って来たつもりが、その人形に操られていたような気がする。役目を終えた人形、それを久し振りに箱から取り出し、指先に掛けてみた。

 指を動かさなくても、人形は勝手に動く。そして、開く筈のない口を開ける。
「ようやく気付いたようですね」
「遅かったか」
「いいえ。死ぬまで気が付かない人より、少しばかりましです」
「そうか」
「ええ」

 食べ頃の 朝夕気になる ひとの柿
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by tabigarasu-iso | 2011-10-31 00:27 | 小説 | Comments(0)

沈む想い出

 本来なら、天空から撮影した紅葉の写真を見せたかった。ただ、そこは車を横に寄せる幅はなく、素早く通り過ぎるしかない橋の上である。

 これまでは、遥か下に見える紅葉の下に隠れた曲がりくねった道から、渓谷の斜面に広がる色鮮やかな紅葉や黄葉を見上げていたものだ。

 そこにダムが建設されることになり、水没を想定した天の橋が完成したところで、そこから眼下の景色を眺めれば、誰でも写真に収めたくなる。

 ダム建設が再開となれば渓谷は水没し、やがて見事な紅葉に変わり水面では若い人がボートを漕ぐことだろう。その底には、長い歴史を刻んだ渓谷、道路、住居跡、紅葉の想い出も沈む。

 八ツ場ダム 長い歴史を 水の底
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by tabigarasu-iso | 2011-10-30 11:33 | 随筆 | Comments(0)

高所恐怖の猿

 人が猿を祖先とするならば、高い所に上って恐怖を感じる筈がない。それがどうした訳か、高いとは言えない二階の屋根に上っただけでも脚が震える人も居る。

 そんな人が深い渓谷を跨ぐ高い橋を車で通り掛れば、平然としている事など出来ない。幸い、橋の両脇は高い塀に囲まれ見えないから、下の深さは判らないまま。

 ただ、橋の下には何もない空間が百メートル近く続いていることを承知している。従い、どうしても落下した際の恐怖は拭えない。

 それに大きな地震でも発生したなら、高い橋桁は呆気なく崩れ去るのではなかろうか。地上を走る車や電車であれば、そんな恐怖を感じることはない。とすれば、高所恐怖症は高い樹上から下りた裸の猿として正常な反応と言える。

天の橋 紅葉遥か 下に見て
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by tabigarasu-iso | 2011-10-29 12:05 | 随筆 | Comments(0)

引いて駄目なら

 コルクを引き抜こうとした
 額に筋が入るだけであった
 更に押し込みテコを使った
 軽く押したら簡単に開いた
 グラスの中でワインが笑う
 
 紅葉の 待ち受ける中 一人行く
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by tabigarasu-iso | 2011-10-28 09:11 | | Comments(0)

頬を染めて

 応接室に入るなり、頬を赤くした事務局長は悩ましい顔をした。
「困ったことになりました」
「いきなり、どうなさいました」
「私の頬、赤いでしょう」
「確かに、いつもより」
「そう、今朝から血管が詰まったような気がするのです」
「そんなこと、判るものですか」
「勿論、自分の身体ですから。それに、以前、脳ドックを受けたところ、毛細血管の詰まった所がありましたから、間違いありません」
「それはお気の毒に」
「待ってください。そう言われると、益々血管の詰まるのが増えていくようです」
「それでは、こうしている場合ではありません。直ぐ、医者に診て貰いましょう」
「そうですね。ところで、もう一つ困ったことに」
「何でしょうか」
「事務局とコンサルの成果が問われているのです」
「それは聞き捨てなりませんね」
「それで血圧が上がり、血管が詰まったような気がします」
「成果を評価されるのは、職業として当然のことです。ただ、評価基準が気になりますね」
「そこです。コストパフォーマンスのコストばかり追い、パフォーマンスとして何を見るのか不明のままでは、評価される側として堪りません」
「それを支援するのもコンサルの仕事ですから、それが不充分であったとしても、今となっては甘んじて受けましょう」
「事務局と一蓮托生ということで」
「その通りです」
 いつの間にか、事務局長の頬は元の色に戻っていた。血管の詰まりは、無かったようである。

 北風に 髪を乱され 手は脇に
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by tabigarasu-iso | 2011-10-27 00:46 | 小説 | Comments(0)

北風に吹かれて

 10月24日、作家の北杜夫さんが84歳でこの世からあの世へ逝かれました。北さんの作品は私の性に合い、新作が発行される度に楽しませて貰ったものです。

 晩年、殆ど作家活動をされていなかったようで、どうされているのか頭の隅で気にしていましたが、ニュースで訃報を知ることになりました。

 北さんのユーモア話は、下品でないところが好ましく、笑い話も直接的でないところに癒しを感じたものです。

 一方、小説「楡家の人々」は、遊び心を捨てた私小説であり、長編ながら飽きさせない小説家の本領を見せて貰いました。

 また、自身が精神科医でありながら躁うつ病であることを公言し、その時の奇妙な行動をエッセイで発表するユーモア精神には頭が下がったものです。

 今頃は、天上で沢山に神様を前にユーモアを披露されていることでしょう。一読者として、そんな北さんの御冥福を心より祈ります。

 北風に 杜夫の名前 呼んでみて
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by tabigarasu-iso | 2011-10-26 18:44 | 随筆 | Comments(0)

戦線復帰

 かみさまの声が聞こえました。
「なあお前、隠居するのはまだ早い。徳川家康、七十三歳を過ぎても先頭を行くではないか」
 全くその通り。大河ドラマ『江』を観ていますから、良く判ります。

 更にかみさまは言いました。
「目標を追う者の目は輝き、遺産を守る者の目は老ける。老けた目には、喜びが見え難い。悲しみばかり見えるようでは、世は暗くなる。そんな老い、敢えて迎える必要はなかろう」

 これまたその通りです。もはや疑う余地はありません。潔く、一度離れた戦線に復帰することにしました。とは言え、かつてのように目を三角にして臨むのではなく、目を丸くしてのことです。

 それは、これまで生きる糧を提供してくれた社会へ、恩返しすることに他なりません。不要なものでは却って社会の迷惑になりますから、何を恩返しするのか良く吟味する必要があります。取り敢えず、その調査から取り掛かることにしましょう。

 何時も 背中押すのは かみさまで
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by tabigarasu-iso | 2011-10-26 08:47 | 小説 | Comments(0)

編集者に告げる

 日経エコロジーの11月号に掲載されたISO事務局10年目の本音、その第1回目に登場したのが『環境方針は3行でいい』である。

 人目を引く魅力的なタイトルから本文を読んだ。そこで編集者の目的は達成したようである。だが、読者の期待は大きく裏切られた。

 まず、環境ISO規格解釈の誤りである。環境方針中のコミットメント(誓約)として、汚染の予防、法規制等の順守だけを挙げているが、環境ISOで肝心な継続的改善が欠落しているのは悲しい。

 さらに首を傾げたのは、環境方針中の教育は不要との乱暴な私見である。景気が悪化した際、企業が経費を削減する対象が教育になる場合が多い。環境方針に教育を入れることで、目標として取り上げることになり、継続的改善の対象になるのだから、それを不要と言い切る偏見には溜息が出る。

 同じ本音を語るにしても、正しい規格解釈のもとで、客観的な視点で意見を述べて貰いたいものだ。また、乱暴な原稿を世に出す前に、編集者は専門家の意見を聞くと良いだろう。

 曇り空 菊の香りに 心晴れ
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by tabigarasu-iso | 2011-10-25 18:44 | ISOマネジメント | Comments(0)

春のアラブ

 アラブの春は、2010年から2011年にかけてアラブ世界において発生している前例のない大規模反政府デモや抗議活動を主とした騒乱の総称である。

 それは今も吹き荒れる民主化の嵐であり、武器はインターネットと拳銃、狙いは独裁政権からの脱却であり、庶民の目指す所は格差是正であろう。

 春の嵐は秋になっても止まず、カダフィー大佐の率いるリビア政府も反体制派の手に落ち、かつての革命児は排水口でネズミのように捕われ射殺された。

 弾丸の届く範囲は限られるが、インターネットによる情報は地球上を瞬時に隈なく結ぶものである。取り敢えず力で嵐を抑え付けても、インターネットを閉鎖しない限りアラブの春は治まらないだろう。

 独裁の 冬の下には 春が待ち
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by tabigarasu-iso | 2011-10-25 00:04 | 随筆 | Comments(0)

何も出て来ない

 日頃から問題意識を持たず、当然のことながら課題も意識しない人は、それを突然提示されても、対策事例が頭に刻まれていないから、幾ら頭を捻っても何も出て来ない。

 策ばかり豊富に持っていても困る。それを理解して実行する人が居なければ、結果は無策と同じことだ。それでも、策を知らない人に比べれば、幾らかましかも知れない。

 年度末が近付けば、誰でも業績評価が気になる。予定通りであれば、ボーナスが期待できるから笑顔を隠せない。さもなければ、減俸や配置替えなどを覚悟しなければならないだろう。

 それだけでなく、来年度の予算を実現するため、説得力のある策を提示しなくてはならない。だが、それが簡単に出来る人なら、当年度の苦戦はなかろう。そんな人には、配置替えが本人の為でもある。

 策は無くても、実行に優れた人は多い。その逆、策は湯水の如く湧いても、実行の苦手な人も居るから、両者を組み合わせれば良かろう。その策は、リーダーの役割である。

 リーダーにその策がなければ、メンバーはそこを離れて別のリーダーに従うか、自らリーダーになるか、そのまま組織の消滅を待つしかなかろう。

 言い訳の 検討会議 無策かな
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by tabigarasu-iso | 2011-10-24 08:47 | コンサルサービス | Comments(0)