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白髪の旅ガラス

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ネクタイ

 ワイシャツにネクタイは、ラーメン屋に割り箸だと長年疑うこともありませんでした。それがクールビスなる温暖化対策の普及に伴い、暑い時期にはノーネクタイの常識に変わり、その扱いをスッカリ忘れた時のことです。

「今日の御都合はいかがですか」
「いつでもお越しください」
「写真を撮りたいのですが」
「・・・、ネクタイが必要ですね」
「はい。公表する資料に掲載するものですから」

 黒いネクタイは別として、会社にネクタイの予備など置いてありません。電話を受けながら周囲を見渡せば、感心にもネクタイを締めている者が一人。
「了解しました。ネクタイ姿で対応可能です」
「はあ、可能になりましたか・・・」
 先方の声が笑いを堪えているのが判ります。

「私のネクタイで良かったら」
「こちらはどうですか」
 自分のネクタイを差し出す仲間に頭を下げたところで、別の仲間がクリーニング済みのネクタイを見付けてくれました。こうして、ネクタイの要望に慌てた小生を助けてくれる仲間の存在、何とも有り難く胸の芯も締まる思いをしたものです。

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陽に焼かれ 大葉萎れる プラタナス
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by tabigarasu-iso | 2010-08-31 06:10 | 小説 | Comments(0)

バオバブの森と生きる

 マダガスカルには、日本の樹木からは想像もできない奇妙な姿をした大木がある。大根の如く横に太い幹、丈も高いものは40メートルもあるが梢だけに枝があり、入学前の子供が描いた絵のようなバオバブの木が並ぶ光景は、お伽噺の国に入り込んだようだ。

 それが農地開発で伐採され続け、絶滅寸前のところを2007年に保護されることが決まり、その姿を直接見るチャンスは残されたようである。それにしても、つい最近まで伐採が続けられた事実、殆どの人は知らなかったことであろう。

 日本であれば天然記念物に指定されるバオバブの大木も、地元住民の食糧確保には叶わない。それほど彼の地は貧しい国のようで、森林保護より目先の生活が優先する余り、輸出が禁止されているシタンの違法伐採も後を絶たないようだ。

 そのシタン、家具や仏壇それに楽器の材料として昔から馴染みである。私達も知らない間に、マダガスカルのシタン違法伐採に手を貸しているのではあるまいか。

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ヒグラシの 声聞く間無く 秋になり
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by tabigarasu-iso | 2010-08-30 07:53 | 随筆 | Comments(0)

カラスは留守番が大好き

 仕事なら兎も角、休日に出掛ける人に頼まれた留守番は気楽なものである。新聞を隅から隅まで丹念に読んでも頭に残る記事は無く、パソコンを開いても画面に置く文字が浮かんで来ない。

 こんな時は昼寝に限る。意識の世界から無意識の世界に戻り、雑念を振り落としたところで、頭に浮かぶ思いを行動に移す。

 そこで浮かんだ文字は、ありふれた留守番のタイトルだから、昼寝も期待するほどの効果はない。寝不足かも知れないから、もう一度無意識の世界に戻ってみた。

 毎日が留守番の愛犬、脚が旨く使えなくて自由に立ち上がれないから、門扉の前で怪しい人の音が聞こえても、専用の寝床で聞き耳を立てるしかない。

 大きな水槽でメダカと餌を分けあう金魚、この暑さで水の蒸発が盛んだから、泳げる水深が浅くなり、猫の爪が心配である。

 そんな声に夢から起こされ、忘れない間に文字に置いてから、愛犬の様子を見れば、留守番の役を任せて爆睡中であり、外に出て水槽の水を足すのが唯一の仕事となった。

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日陰には 秋風潜む 残暑かな
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by tabigarasu-iso | 2010-08-29 12:47 | 小説 | Comments(0)

昼寝の心地良さ

 慌しいコンサルの旅が続いた週末は、ゆっくり家で過ごす楽しみがある。朝寝は勿論、好きな音楽を聴きながら、家の中を片付けた後で、噴出した汗をシャワーで流す。

 裸に近い姿で昼を迎え、乾いた喉には麦酒を与える。目を閉じれば、冷えた液体が喉を越し、胃袋に納まる光景が浮かぶ。何とも言えない至福の時とは、この瞬間であろう。

 麦酒で腹は満ち、御飯など不要だが、午後を迎えるには昼を抜く訳には行かない。冷えたソバなど掻き込み、仕上げと称してもう一缶麦酒を開ける。

 それを片手にテレビを観れば、三分も経たないうちに瞼が閉じて夢の中。何もかも意識下に潜り、数時間も眠った気分で起きて見れば、わずか三十分余り。

 山仕事で弁当を喰った後、必ず昼寝した昔に戻ったようである。あれから干支が三度巡ったが、昼寝の心地良さは変わらない。

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夏休み 宿題出さぬ 夢を見て
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by tabigarasu-iso | 2010-08-29 00:12 | 随筆 | Comments(0)

蟻と語る

 いったい何処から迷い込んだものでしょう。体長三ミリメートルにも満たない蟻が二匹、ノート型パソコンのキーボードの谷間を縫うように歩き回っています。

 やがて、二匹は作業中の文字が並ぶ液晶ディスプレイの画面上に肩を並べて移り、片方の蟻が小さな前脚で顔を拭きました。その様は、誰かに見られていることを意識しているようです。

 それが事実だとすれば、小さな蟻ながら神経の何と太いことでしょう。とは言え、直ぐに方向を変え動き始めましたから、何か忘れ物でも想い出したようです。

 再び画面上に現れた蟻は、カーソルの動きに興味を持ったのでしょうか。それに合わせて画面を移動する遊び心を持っています。

 それにしても、たった二匹の小さな蟻が巣を遠く離れ、腹の足しにならないパソコンにまとわりつき、いつまでも去らないのは何故でしょう。

 はて、待ってください。パソコンの入力者の気持ちが判ったようです。小さな蟻は、画面上の文字を選び始めました。

『地下も暑くてたまりません。冷房の効いた部屋は良いものです』
 この小さな蟻には、相当の智恵があるようです。入力者は、感激して返信しました。

『何か欲しいものがあれば』
 蟻は、直ぐに文字を探して歩き回ります。

『帰りに砂糖を少し分けてください』
 入力者は、台所のドアを開け、その直ぐ下の土に砂糖を置いてあげました。

 パソコンに戻ると、既に蟻の姿は何処にも見当たりません。砂糖を土産に地下の巣へ帰ったことでしょう。


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幻覚か 一分に満たない 訪問者
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by tabigarasu-iso | 2010-08-28 13:27 | 小説 | Comments(0)

沈黙の車両

 朝の通勤車両は、規則正しくレールの上を走る。レールの繋ぎ目を通過する際、カタリと音を立てた。それも、瞬間のことで苦にはならない。

 誰もがマナーを守る筈の沈黙の車両では、後部座席の二人は嫌われている自分達を知らない。小さな声ながら、絶え間ないお喋りは周囲の耳に障る。

 互いに聞く振りをしながら、自分の話題に直ぐ戻す。満足できない強気の一人は、相手の話の腰を折り、上品な言葉で冷たく突き放した。

 そこまで言われるなら、一緒に行動しなければ良いものを。突き放された弱気の人は、冷たくした相手の機嫌取りに話し掛ける。

 こうした遣り取りは、沈黙の車両で異様に響く。呆れ果てて振り返り、二人の容姿を良く見れば、明らかに高価と判る和服を着込み、上品な手付きで扇子を振る老婦人であった。

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鳴き疲れ 舞を忘れた 雄蝉よ
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by tabigarasu-iso | 2010-08-28 08:05 | 小説 | Comments(0)

動じぬ蟹

 街中の水路が海に流れ込む先に船着場がある。コンクリートで作られた階段を数段下りたら、そこには満潮時の水面があった。

 階段の隅に蠢くものがある。それは、甲羅の径が一寸以上もある蟹であった。侵入者を認め、慌てて横に歩き、そのまま水中へ次から次に潜って行く。

「何もしないから、もう少しゆっくりしておくれ」
 屈んで話し掛けてみたが、こちらを見ながらも横歩きは停まらない。

 最後に残ったのは、甲羅の径が二寸もある大きな蟹である。挟まれたら指が切り落とされそうな大きな鋏を突き上げ、こちらの攻撃を待っているようだ。

「慌てるなよ。味方だ」
 突き出た目を見ながら説得すれば、左右の鋏を合わせて下ろしてくれたから、了解してくれたようである。そのまま、大きな蟹は横に動くこともなく、こちらを珍しそうに見上げた。

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潮の中 カニも魚も 夏知らず
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by tabigarasu-iso | 2010-08-27 00:04 | 随筆 | Comments(0)

裏もある

 修了試験を実施した時のことです。
「あと五分で試験は終了します」
 回答を真剣に考えている受講生の邪魔にならないよう、講師は静かに伝えました。
「問題は用紙の裏にもあります。忘れないようにしてください」

 その時、慌てた方が一人居たようです。
「試験終了」
 やがて、講師は回答用紙の回収に入りました。

 その人は、ペンを置こうとしません。
「どうされましたか」
「すいません。裏の問題を見逃していました」
 詫びながら、必死に回答を書いています。

 講師は、他の受講生に伝えました。
「終了まで、もう五分ほど待って頂けますか。仲間のピンチです」
 同じ講義を受け演習に参加した仲間は、笑って賛同してくれます。

 漸く回答を仕上げた人は、頭を下げて講師の元へ。ところが、その人の後にも頭を下げた人がもう一人。

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馬追いも 出番見直す 熱帯夜 
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by tabigarasu-iso | 2010-08-26 06:45 | 小説 | Comments(0)

噂のハナミズキ

 映画のハナミズキは、大変な評判らしい。今のところ、それを観ていないから何とも言えないが、映画を観た人は感激の余り物が言えない状態だという。それほど人の心を揺さ振るものなら、一度は映画館に足を運ぶ価値もありそうだ。

 そう言いながら、大変な評判と言われるものを嫌う癖がある。書店で目立つところに山積みにされている書籍は買わない。また、行列のできるラーメン屋に並ぶことなど御法度である。まして、感激の余り物が言えない映画など、評判の高い間は観るまでもない。

 ブームの去った頃を見計らい、そっと書店で捜し求め、静かにテレビで放映される映画を楽しむ。人と同じ気持ちを持ちながら人と同じ行動をしたくない、俗に言うへそ曲がりなのである。良く言えば、ブームに流されないで、客観的な評価が可能な立場とも言えよう。

 当分の間、ハナミズキの映画を観ることはない。けれど、その木は自宅の庭にあるから、新芽が出て葉を広げ、花を咲かせて散らせ、やがて葉の散るまで、朝夕の観察対象になっている。ただ、その花のようなガクを美しいと思ったことは一度もない。

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ザクロ達 赤い果肉を 誰に見せ  
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by tabigarasu-iso | 2010-08-25 00:06 | 随筆 | Comments(0)

地下鉄のリストラ

 東京の地下鉄は、東京メトロと都営地下鉄の二社がある。前者は国営だが、歴史も古く利用客の多い路線を抱えているから収益性も高い。それに比べ、後者は漸く単年度での黒字経営が実現できたものの累積赤字が膨大である。

 両者を一本化する案が検討されているようだ。どちらも同じ地下鉄であり、ICカードで自由に乗り換えが可能な現状は、利用者からみれば既に一本化しているようなもの。だが、利益を出しているメトロ側は、大きな負債を抱える都営地下鉄側とは一緒になろうとしない。

 どちらも民間ではないから、いずれ政治的な決着を図る時が来るだろう。それにしても、今更ながら地下鉄が二社であった事実を認め、驚く方も多い筈だ。良く考えれば、東西線から南北線に乗り換える時に改札を出て入り直しているから、別の経営であることは判る。

 利用者からすれば一本化が良い。乗り換えも便利になり、改札が減る分だけ料金も安くなるから。また、海外から来る利用者にとっても判り易くなることだろう。駅名さえ確認できれば改札無しに乗換え可能な地下鉄になり、更に利用者が増えるに違いない。
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ススキ伸び 穂先膨らむ 夕暮れに
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by tabigarasu-iso | 2010-08-24 07:03 | 随筆 | Comments(0)