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白髪の旅ガラス

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講師のレベルアップ

 講義には、必ず目的があります。それを、講義の冒頭で受講生に伝えなくてはなりません。さもなければ、講義の終わった時点で、目的の達成が出来たか否か判断することが出来ないでしょう。

「今回の講義は、定めた基準を理解し、それが現場で実践されているか、皆さんが確認する手法に関し演習を通じて習得して貰うこと、また基準と現場とのギャップを発見した場合、それを埋める手法も併せて理解して貰います」

 こうして、講義の目的は全員に笑顔で理解されましたが、説明を終え演習が進むに連れて、一部の受講生の顔色が雲って行きます。それは、目標の達成手段と担当者及び時期に関する説明を終えた後のことでした。

 聞く分には理解できた内容も、いざ自分の意見を述べる段階では思うように言葉が浮かばない受講生が現れ、講師は具体的な助言に入ります。

「失礼ながら、貴方は回答として理想的な言葉を選ぼうとしていますね。例えば、営業目標を達成出来ない部下を前にして、貴方は目標の未達成を叱るだけですか。それでは、部下の方は萎縮するだけで解決にはなりませんね。どうしたら営業先を見付けることができるか、見付けた先へ何をどのように提案したら良いのか、部下の方が悩むギャップ解消の指導そのものが、貴方に期待する回答です」

 その受講生は、良く判りましたと実践に基づく自分の意見を述べてくれました。その内容は、周囲の受講生を唸らせるものです。それに気を良くした講師は、仕上げにテスト問題を配り、心躍らせて採点したのですが、その受講生の回答用紙だけは白紙でした。

 その時、講師は己の力量の無さを深く反省したのです。考え方の説明や演習に力点を置いたのは間違いではありませんが、自分の考えを他人に伝える文章の書き方まで講義の中に盛り込み、演習にも加えるべきでした。次の機会には、その力量も備えた講義を期待したいものです。

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雨上がり 殻脱ぐ蝉も 羽根を干し
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by tabigarasu-iso | 2010-07-31 00:14 | セミナーサービス | Comments(0)

西日の当たる部屋

 猛暑の続く中、窓に西日の当たる部屋が用意されていた。その部屋には何の想い出もないが、何処となく懐かしく、何となく侘しさも感じる。案内者の説明によれば、冬は寒くて夏は暖かい特別な会議室だと言う。そこには、宙に浮いたまま結論の出ない提案が、行く先もなく漂っているかも知れない。

 汗を流しながらの覚悟で講義を始めたが、予測に反して外は曇り空で一向に暑くなる気配がなかった。いかにも心地良い室温では、宙に浮いたままの提案も悪戯に漂う訳には行かないのであろう。やがて西日の差す午後を迎え、徐々に室温が上昇して行けば、それが登場するに違いない。

 受講者の瞼は微かに開いているものの、脳は浅い眠りであろう。それは、瞼の下に隠れた眼球のウサギに似た動きで良く判る。中には、叶わぬ夢を見ている人も居るかもしれない。それを壊してはいけないから、講師は話し声を次第に小さくして行った。

 漸く、空調の効かない状況が訪れ、西日の当たる部屋の本性が現れる。額に汗が滲むと同時に、頻繁に使われない部屋に特有の壁の匂いが室内を漂う。流れ落ちた汗で目を醒ました受講生の面々も、ここが西日の当たる部屋であることを想い出した様子である。

 怨念を抱いた提案の出番だが、果たしてどうか。それを待つばかりでは意気地がないから、講師は受講生に提案した。

「今、客先から品質クレームを受けた部下から連絡が入った場合、あなたは何を提案されますか」
「・・・取り敢えず、十分の休憩を提案し、クレーム対応の指示を部下に出します」
「その提案が叶わない場合は」
「天井を睨んで諦めましょう」

 そう言って天井を見れば、得体の知れないものが受講生を見下ろしている。その瞬間を、講師は見逃さなかった。

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眠れない 心を映す 妖怪か
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by tabigarasu-iso | 2010-07-30 07:51 | 小説 | Comments(0)

レベルアップ

 植物でも動物でも、成長の止まるまで丈は伸び続けます。その中でも、人は精神の成長に終わりがないと誤解し、幾つになってもレベルアップを止めません。けれど、物理的な成長と同様、精神的な成長にも限界があり、それから先は維持できれば良いとして、いずれ下り坂になる覚悟が必要です。

 一方、大半の人は精神を司る脳を充分に活用していないと言われていますから、百パーセントの活用まで成長する余地だけはあるでしょう。それまでは成長を諦めないで、脳のレベルアップを図ることになります。

 その一貫として、ある組織は内部監査レベルアップコースを開催し、小生は講師を務めることになりました。何しろ、目的が脳のレベルアップも兼ねるものです。並みの講義や演習では済みません。脳の未利用部分を掘り起こし、これまでにない仕事をして貰う必要があります。

 そこで、新しい神経細胞の組み合わせを促す質問を、誰彼と順番を決めずに投げ掛けて、その場で回答者の反応をみながら、関連の質問を更に投げ掛けました。すると、いつ何が質問されるのか判らない脳は、全体に神経を配ることになり、眠っていた脳細胞も醒めます。

「もう一度質問を御願いします」
 自分が質問されるとは思っていなかったのでしょう。講師に質問内容を確認する回答者に対し、皆から批判とも同情とも取れる笑いが起こりました。

 その質問は、監査される側の是正処置が充分か、不充分であれば改善案を答えて貰うものです。
「これは是正処置ではなく、その場凌ぎの応急処置だと思います。こうなったのも、先の原因究明が不充分であり、何れも内部監査員が承認していますから、内部監査員の力量にも問題があるのではないでしょうか」

 講師が提示した事例は当該組織のもので、会場には力量に問題があると評価された内部監査員も参加していました。そこで、講師は敢えてその人に質問します。
「今回の内部監査員の評価は適切ですか」
「はい。その監査員は、不適合に対して真の原因追求から是正処置の有効性まで、確認することなど念頭にありませんでした」
 こうして、この内部監査員のレベルアップは、その場で確認することができました。
















ムクドリの 糞を嫌って 枝落とし
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by tabigarasu-iso | 2010-07-29 06:19 | ISOマネジメント | Comments(0)

暑気払い

 どうにもこうにも、こう暑い日が何日も続くといけません。もともと動きの悪い脳は働くのを止めて、キーボード上に置いた手先が習慣で動くばかり。こんな状態で朝から晩まで真面目に過ごそうとしても、予定した仕事の半分も進まないばかりか、その内容も芳しくないことでしょう。

 そんな時は早めに会社を出て、暑気払いするのが賢明です。
「さあ、暑気を払いに参りましょう」
「なるほど」
「いや、どこもかしこも暑気ばかり。払う先がありません」
 かように、出掛ける前に賛否入り乱れながら、結局、揃って暖簾を潜ることになるでしょう。

 景気が良い時なら、暑気払いも勢い派手になりますが、世界的な経済不況の煽りを受けて、人員整理や事業の再編成が激しく励行された直後では財布の紐も固いまま。それでも、冷えた麦酒を煽れば俄かに元気を取り戻す酒飲み仲間は、財布の中身を気にしながらも痛飲することになるのです。

 長期予報では、今年の暑さは九月まで続くそうですから、暑気払いも一度や二度で終わりそうもありません。昼の外食を弁当に切り替え、近場はタクシーを控えて歩くなど、生活パターンの見直しを実現しながら、浮いた費用を頻度の増える暑気払いに回すことになりそうです。

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暑気払い 追われた熱で また暑く
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by tabigarasu-iso | 2010-07-28 07:49 | 随筆 | Comments(0)

素数蝉

 素数蝉、世の中には何とも妙な名前の蝉が存在するものです。その蝉は米国だけに棲息しますから、残念ながら近場で見ることはできません。名に素数が付くのは、十三年と十七年毎に米国で一斉に羽化することが理由のようでして、一以外の整数で割れない数字を素数と言うことなど殆どの人が忘れていますから、取り敢えず想い出しましょう。

 その蝉は、十三年と十七年の素数を何故選んだのか。日本の蝉のように毎年羽化した方が、種を保存するには有利な筈です。一斉に羽化した場合、その夏が冷夏であったら絶滅の恐れがありますから、そんな危険を分散する方が賢い種ではないでしょうか。

 十三年と十七年に一度の大博打ですから、素数蝉と言うより「大博打蝉」と呼んだ方が良いのかも知れません。他の種との生存競合を避けるためとの説もありますが、複数の蝉が賑やかに共存する日本からみれば理解し難い説です。

 一斉に羽化した素数蝉の騒音は想像を超えるもの。数十匹の熊蝉が鳴く位で神経を擦り減らすようでは、米国で素数蝉の羽化に遭遇した場合、どんな状況に陥るものでしょうか。耳を押さえて七転八倒し、そのまま息絶えるかも知れません。けれど、一度で良いから素数蝉に遭遇してみたいものです。

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素数蝉 一度会えれば しめたもの 
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by tabigarasu-iso | 2010-07-27 07:37 | 随筆 | Comments(0)

 遥か上空には雷神が住み
 大きな木製の荷車を牽く

 その上には大きな水の樽
 杓を入れて撒く先を探す

 荷車の音が次第に速まり
 仲間同士の激し衝突には

 堪らず閃光が飛び交って
 ドンピカドンピカ喧しい

 いよいよ杓の出番を迎え
 手加減なしに汲んで撒く

 いきなり大粒の雨を貰い
 受けた葉は嬉しく泣いた


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入道の 雲が生まれる 昼下がり
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by tabigarasu-iso | 2010-07-26 08:59 | 小説 | Comments(0)

忘れ物は何ですか

 誰でも、一度や二度の忘れ物をした覚えはあるものです。
「何を忘れたの」
「買ったばかりの傘なの」
「諦めなよ」

 電車の扉が閉まった直後、網棚に置き忘れたケーキや傘に気が付いても、走り去った車両を見送るしかありません。それが大切な資料であれば駅員に駆け寄り、何とかしてくれと頼み込みますが。

「それで、どうしたの」
「駅員に捜索を御願いしたわ」
「傘の」
「そうよ」

 高価な傘ならともかく、間に合わせに買った傘なら、回収する手間の方が高くなるものです。
「で、その値段は」
「見付かったら、受け取りに行く価値は充分にあるの」
「・・・」

 その日の夜遅く、駅員から電話が入りました。捜索を御願いした傘が見付かったようです。どうやら、誰の趣味にも合わない代物であったのでしょう。さもなければ、たかが傘一本、誰かに貰われても良かったのに。

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久し振り 夕立降りて 街は冷め
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by tabigarasu-iso | 2010-07-25 18:00 | 小説 | Comments(2)

コンサルに変身する前

 大宮駅から仙台駅まで、久し振りに東北・山形・秋田新幹線に乗る。利用頻度の多い東海道新幹線と異なり、新幹線の名は長いものの、発着本数と利用客数は比較にならない。その所為か、待合室には仕事前の緊張感を漂わせる人もなく、搭乗を知らせるアナウンスがのんびりと聞こえる。

 ホームに上がったものの、上越新幹線の分岐点になっている所為か、列車の名前により搭乗番号が異なる複雑さ。東海道新幹線であれば、「のぞみ」と「こだま」の列車名が異なっても、搭乗口の番号は変わらない。この新幹線を初めて利用する人は、必ず搭乗口探しで迷うことであろう。

 その所為で、指定の席に座ると肩の力が抜けた。だが、走り始めた車窓に緑が増え始めると、俄かに活力が蘇る。トンネル通過が増える頃、山の裾には人の姿が見えない農道が現れ、いつの日か歩いてみたくなった。

 そんな感傷に浸っている時、柔らかい誰かの視線を感じる。車内に視線を移してみたところ、それは前の席の隙間から放たれていた。やがて座席の上に頭を見せた小さな坊やは、自分の存在を教えたくて、頻繁に顔を見せてくれる。

 視線が合うたびに微笑んであげたら、その子は満足したようだ。この後、白髪の爺様が環境コンサルに変身し、大きな声で遠慮なく若い社員を叱咤激励することなど、嘘のような瞬間である。

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誰通す 跳ねた橋先 見るトンボ
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by tabigarasu-iso | 2010-07-25 00:30 | コンサルサービス | Comments(0)

寒暖計になりたい

 その日の最高気温は、岐阜県の多治見市で39℃を超えたそうな。外に出て吸う息も熱く、裸足でアスファルトの上を歩くものなら、足の裏が火傷する。あたかも風呂の中を泳いでいるようで、風呂好きには堪らないかも知れない。

 日頃の風呂もカラスの行水と言われる速さだから、湯の中をゆるゆると歩く気持もなく、何ともだるい足を急かせて、冷房の良く効いた研修室に駆け込む。その勢いが出番を待っていた汗を押し出し、既に皺だらけのハンカチを顔から頭まで何度も往復させた。

 午後一番の講義は、受講者だけでなく講師も辛い。瞼の下がった面々を前にして、講師も己の瞼が下がらないことを祈るばかりである。だが、その日はいつもと違い、冷たさを通り越した寒波が研修室の後方から襲い、半袖の両腕に鳥肌が立ち始めた。

 腕を交互に摩擦しながら講師は自分に近い受講生に聞く。
「大丈夫ですか」
 何が大丈夫か判らなくても講師の質問に否とは言えない。
「ええ」
 そう言いながら、受講者は腕を寒そうに摩っている。

 勘違いを知った講師は詫びながら。
「失礼しました。冷房が強過ぎるのではないかと訊いたのですが」
 今度は周囲の受講者が声を揃えて。
「大変寒く、居眠りもできません」
 これには、講師も苦笑いするしかなかった。それにしても、外の灼熱と室内の寒波には、寒暖計に変身しなければ、聞くも話すも務まりそうにない。

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熊蝉も 暑さを避ける 昼寝かな
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by tabigarasu-iso | 2010-07-24 17:33 | Comments(0)

里帰り

 土の中で八年余り過ごし、地上に出て半月余りの一生を終える蝉は、土の中が生活の主であり、地上は子孫を残す最後の瞬間でしかない。その姿も土中と空中で大きく異なり、生まれてから姿の変わらない人間から見れば、驚くに値する大変身を行う。

 同じ様な変身として、水中生活のオタマジャクシが陸上生活も可能な蛙になることは誰もが承知だ。その変化は、蝉が十年近く掛けて変身するのに対して、たった数日であるから驚くほど早い。観る者の前で、尾ビレの近くに後足が現れ、それがなくなる頃には前足が出てくるから、飽きずに変身を確認できる。

 それらをヒントに人が作り出した変身は、狼男、吸血鬼、ウルトラマン、仮面ライダーなど、何れも数秒の変化で何とも忙しい。観る者が厭きないようにする作り事だから仕方ないが、それより身近な自然で変身の早いオタマジャクシを観察させた方が感動して貰えるだろう。

 だが、変身した後の蛙のことを忘れてはいけない。水中生活のオタマジャクシの世話は簡単だが、跳ね回る蛙の餌とその将来を考える必要がある。変身を身近で観察できた礼として、オタマジャクシの頃の場所に返して上げれば蛙の里帰りになる。その大切さは、人の子にも伝えたいものだ。

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オタマがね 蛙になって 里帰り
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by tabigarasu-iso | 2010-07-23 00:06 | 随筆 | Comments(2)