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白髪の旅ガラス

エフワン

 その昔、砂利道を走る自動車の数が少なかった頃は、四輪が剥き出しになった中央にレーサーが座るレーシングカーに憧れ、バス代を歩いて節約し、草むしりの手伝いで小金を貯め、そのプラモデルを何とか手に入れ、仲間と夢中になって組み立てたものです。

 ところが、形ばかり気を使い組み立てる所為か、電池を組み込み終えスイッチを入れても、ギヤが空回りするばかりで、後輪が旨く回りません。どうやら、モーターの軸に打ち込む鉄製のギヤと、それを受けるプラスチック製ギヤの噛み合わせが旨くないようです。

 皆が揃って競争できるまで、早く完成させた者もじっと我慢し、やがて畳の上をレース場に何度か競争する段になりますが、その中の一台が運悪く柱に追突して、前輪が大破する事態が発生。

 交換しようにも、予備の部品などありませんから、部品の付いていた枠を利用し、大破した箇所を補強します。それも、火箸を焼いて溶け始めたところで圧着。スマートなレーシングカーの前輪は、見事に治りましたが、見た目は芳しくありません。それでも、電池の切れるまで、畳の上で束の間のレースを味わったものです。

 テレビ画面に映る本物のレーシングカーは、雨の中を猛スピードで走り抜けて行く。タイヤの選択を間違えたチームは、慌ててピットイン。燃料の補給を済ませて発進した車体が、一瞬炎に包まれ唾を飲むものの、こぼれた燃料が燃え尽きて、誰も心配しない。
 
 競り合いで破損した前部の風除け、ピットでさっさと交換。流石に、タイヤが取れるまで破損しては、レースは終わりに。こうして、順位を命懸けで競うレースは、見る者を飽きませんが、轟き音、燃料の大量消費、廃棄物の発生などが気になり、何を目的にするレースなのか考えさせられます。
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                  道脇に 幹逞しく 何育て
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by tabigarasu-iso | 2007-09-30 22:55 | 随筆 | Comments(0)

 上野駅から下り電車に乗り、降車駅までの三十分間で話を一本まとめる、一話勝負に挑戦する。これも、テーマさえ決まれば難しいことではない。今回などは作業時間をそのままテーマにしたから、能が無いと言えばその通りだが、話は順調に進み、結末の段階で時間切れになりそうである。

 まずは、久し振りの出会ったヨシダさんのこと。環境ISOのコンサル先の管理責任者に任命された方であったが、より広範囲な社会貢献が可能な仕事を望み、生命保険の会社に転職されて挨拶に来社された。その動機を聞けば、友人が急死され、残された家族の窮状を目の当たりにしたことにあると言う。人生の岐路とは、何が機会になり、誰と別れ、誰と再会するのか判らないものである。

 次は、数年振りに電話をくれたコンサル仲間のサトウさんのこと。今では社員十名の先頭に立つ立派なコンサル会社の社長さんだが、歯に衣を着せない物言いは、前と変わらず健在で、余分なことは言わず、ずばり情報交換で会いましょうと清々しい。時に入札で争うライバルだが、同じコンサルを飯の種にする仲間に変わりはないから、会うのが楽しみである。

 最後は、見知った社長の記事が載る雑誌を眺めてのこと。その方は、注目される企業のリーダーとして、テレビ番組に収録されたこともある。それを観た時の感想は、組織力ではなく、自分の力だけを誇示するコメントに呆れたものだが、知らない人は信じるから、テレビとは恐ろしい。書き物とて同様であり、組織のマネジメントに向かない性格であっても、文字をマネジメントするのが巧みであれば、読者を惹きつける。こうした方は、書物の世界だけで生きて貰うのが、一番ではなかろうか。
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               その道に 向かない人が その道を
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by tabigarasu-iso | 2007-09-27 22:32 | 随筆 | Comments(0)

椅子取り

 この度の自民党の総裁選挙は、投票前から勝ち負けが明らかでした。派閥の力関係で選挙前から優劣が決まっているのに、それを承知の候補者が同じ宣伝車に乗って街頭演説を行い、これぞ民主主義を貫く選挙だから敢えて臨むとは、劣勢側の弁であったと思います。

 同じ事を言うにしても、先の参議院議員選挙で大敗を喫した直後であれば、結果がどうであれ、それなりに納得できたことでしょう。それにしても、二院制の一方である参議院で大敗したのですから、もう一方の衆議院では多数派とは言え、国民の総意を確認する選挙を先に行うのが、民主主義ではないでしょうか。

 ところで、総理総裁選挙演説に対するテレビ番組を観た人の評価は、劣勢側と言われる候補に過半数の視聴者が賛同しておりました。総裁選挙に投票する権利の無い人の評価ですから、参考にならないかも知れませんが、国民の意思がどこにあるのかを知る、良い事例であったと思います。

 やはり、総裁選挙の結果は選挙前の予測通りとなりました。当選された方は、先の総裁選挙で出馬を断念された方で、その理由の一つが、国民の先頭に立つリーダーとしては、高齢なことであったと思います。同じ方が、今回は国民の先頭に立ち、難局を乗り切ると決意を述べられましたから、勝ち戦なら参戦すると言うのが本音ではなかったのでしょうか。

                安売りに 勝機見出し 福笑い
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by tabigarasu-iso | 2007-09-24 18:46 | 随筆 | Comments(0)

君は心の妻だから

 浜松のホテルに入り窓を開ければ、隣のビルディングで働く人の視線がこちらを射抜き、急いでカーテンを閉めれば、誰も居ない室内に響く空調音が寂しく、つい押してしまうのは、テレビのスイッチ。そこに映し出され聞こえてくるのは、懐かしい歌手とメロディーの数々。

 ♪愛しながらも♪定めに負けて♪
 一緒に住めない仲ながら、心では妻と言う男。実に身勝手な男の歌だが、何故か聞き入る男女の多く。それが終わるまで、脱ぎ掛けた背広もそのまま、じっと聞き入る仲間の一人に。

 ♪君は心の妻だから♪の節は、自分で歌って締める。そこで区切りを着け、仕事をするつもりであったが、次に流れた曲も無視する訳にはいかない。脱いだ背広をベッドに放り投げ、お気に入りの歌詞を待つ。

 ♪馬鹿ね♪馬鹿ね♪よせば良いのに♪
 女の立場で嘆く切ない歌声に惹かれ、いつまで経っても駄目な私になってしまった。かように、昔の歌は、詩を聞かせ、メロディーに酔わせるものが多いが、それを今の歌に望んではいけないことだろうか。


             浜松の うなぎ喰わずに 帰れるか 
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by tabigarasu-iso | 2007-09-22 00:00 | 小説 | Comments(0)

影を慕いて

 暦の上では既に秋、そう思って慌てることもなく起きてみれば、窓越しに見える太陽は、真夏と変わらぬ輝きを保った光線を放ち、空調設備を嫌って自然に任せた寝室の開け放った窓へ、むんむんとする熱風を送り始めたから堪らない。

「遅くなって、御免。これから行こうか?」
 物言わぬ友に詫びながら問えば、先程まで腹を上に鼾をかきながら、すぐさまくるりと起き上がり、了解の合図に一声吠えるから恐れ入る。

 首に紐を着ける時間も惜しんで飛び出したものの、充分に焼けた舗道に足の裏を載せた瞬間、反射的に爪を立てて舗道との間に隙を作り、足裏を熱源から退避させたまま、少し考えた。
『このまま散歩に行けば、用は足りるかもしれないが、無事に帰宅できるか判らない。さりとて、散歩を止めれば、庭か家中で放尿することになろう。そんな勿体無いことはできないから、やはり爪を立てたまま進むしかあるまい』

 幸いにして、陽の当たる反対には、必ず影ができている。それが無いところは避けて、影から影へ伝い歩く忍びに成り切り、公園の樹木の下ではゆるりと憩い、低い塀の影では急ぎ足で渡り切り、一人と一匹、影を慕いて散歩を終える。

               ままかりに 箸置く間なく 西大寺
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by tabigarasu-iso | 2007-09-19 22:57 | 随筆 | Comments(0)

早生柿

 旬より早めの新米を頂いた数日後のこと、晩秋に柿を分けて貰う農家から、早生柿が獲れたからどうかとの連絡が入り、それが大好物の相方は、迷うことなく誘いに応じたのだが、断面にゴマが沢山ある割に、少しも甘さはなかった。

 一つ二つなら良いけれど、それが段ボール一箱だから、どうしたものか。しぶしぶ皮を剥きながら、口に運んで更に知る。
「甘くないし、水分も足りない。貰いものなら我慢もするが、購入したものだから、返そうか?」
「試食はしなかったけれど、ゴマの沢山あるところは見せて貰ったから、今更返せないわ」

 それにしても、どうしたことであろうか。このところ、太陽は激しく照り付け、雨も適度に降った。表面の艶も良く、その色合いも悪くない。甘くない理由が、見つからないのである。ひょっとしたら、別なものは甘くはないかと齧ってみたが、最初のものと同じ程度の甘さしかない。

 首を捻る男に、相方が手を叩いた。
「皮を剥いて、干し柿にしたらどうかしら」
 何とかしたい相方は、無理を承知で打開策を考えながら、今度は同じ農家で手に入れた栗を茹で上げる。けれど、それも甘さが足りない。
「糸で輪にして窓に吊るし、干し栗にでもしようか」
 男は、そう慰めるしかなかった。


             蚊が鳴けば 言いたいことを 文にして
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by tabigarasu-iso | 2007-09-18 22:21 | 随筆 | Comments(0)

秋刀魚は焼くに限る

 脂がのった秋刀魚を炭火で焼いて、熱い内に醤油をたっぷりと掛け、その上に大根おろしを載せ、箸で身を崩してつまみ、熱い白米と一緒に頬張れば、これに勝るものはない。こう信じて疑わないのも、山国育ちの男が海の魚の味を知らず、唯一知るのが安くて新鮮な秋刀魚であったからである。

 昨年のこと、秋刀魚が例年に比べ小さくなったと呟けば、そんなことはないと批判のコメントを頂戴した。だから今年は、何度も口にしてから呟くつもりであったが、それでは季節外れになるからと思い直し、旬の秋刀魚に期待する方が、読みながら唾が流れ出したら望外の喜びである。

 やはり秋刀魚は炭火で焼くが良い。滴る脂が燃えて煙を上げれば、旨みを濃くして臭みを持ち去る。火力が強過ぎ多少は焦げるが、それが大根おろしに良く似合う。じゅうじゅう音のする間に皿に載せ、背から尾にかけ箸で軽く押し、骨を身から離しに掛かり、尾を折って骨と身の間に箸を入れれば、焦げた皮に包まれた身が骨を捨て、さあ食べてくださいと白身を見せる。

 その一切れで茶碗の飯が半分に減り、二切れ目で碗は空になり、お代わり碗が空になるまで、四切れのペースは変わらない。それ以上のお代わりは、たとえ身内でも恥ずかしく、黙って半身を食べ終えて、それから後は自分で釜から飯を盛り代える。さよう、焼いた秋刀魚を前にすれば、餓鬼のようだと言われても、黙って頷く秋の夕飯。

              連泊に 眠れぬ夜の 枯れススキ
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by tabigarasu-iso | 2007-09-17 17:35 | 随筆 | Comments(0)

眠れない

 汗の臭いを嗅ぎつけ、羽音を徐々に高くしながら飛来する一匹の蚊。それを素早く察知して平手で強く打てば、耳の高鳴りが聞こえるばかり。このまま敵を自由にさせては、襲撃を受けるばかりで眠れそうもないから、電子蚊取りのスイッチを入れた。

 それでも、蚊の攻撃は続く。そこで、近代兵器を覗いて見る。何のことはない、液体の蚊取り薬が切れていた。仕方なく、旧式の武器を取り出し、渦巻きの端に火を点ける。すると、蚊の攻撃は収まったが、充満した煙にむせて、寝た子まで起こしてしまった。

 かつては気にならない煙であったが、久し振りの登場に免疫も失せていたようである。呆れた相棒が起き出し、液体でもなく煙も出ない別の武器を探し出す。それを知っていたなら、最初から探してくれたら良いものを。

 爪ほどの大きさで、蚊取りの成分を滲み込ませた板を加熱すれば、蚊取り線香の臭いが漂い始めた。やがて、寝室を満たした煙も引き、蚊の羽音も聞こえぬ平和が訪れる。だが、寝そびれた男は、寝息を立てる相棒を、朝方まで恨めしく見詰めるしかなかった。

             ガス電気 囲炉裏が消えて 温暖化
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by tabigarasu-iso | 2007-09-16 00:07 | 随筆 | Comments(0)

もういけない

 今日もまた貝になる審査の立会いを終えてホテルに戻れば、所信を述べたばかりの首相の辞任表明のニュースが流れていました。国を代表される方ですから、その任の重さは、家長や社長の比ではないと思いますが、発表のタイミングの悪さには驚きです。

 先の参議院議員選挙で大敗した党首ですから、その直後に責任を取って辞任されたなら、誰もがすんなり認めたことでしょう。けれど、その際には、続投して行政改革を進めることこそ責任の取り方であると宣言されただけに、信念を翻した真意が判りません。

 会社勤めや商売をしている人なら、仕事を辞めた後の生活を考えなくてはなりませんが、議員までは辞めるつもりはないでしょうから、それは考える必要がない。そこが庶民と政治家の大きく異なるところです。体調がすぐれないことが一因のようですから、明日の生活など苦にせず、先を見込んでゆっくり静養されては如何でしょう。

 ところで、明日の生活ばかり気遣えば、百年先まで見越した指導力など生まれそうもありません。けれど、百年先も明日があってのことですから、多くの人の先に立つなら尚更のこと、明日の生活を軽んじてはいけません。次期首相に、明日を気遣う庶民の感覚と百年先を睨んだ政治家としての指導力を望むのは、やや欲張りでしょうか。

              散る時期を 知らぬは花を 持たぬ人
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by tabigarasu-iso | 2007-09-15 21:57 | 随筆 | Comments(0)

命拾い

 凌ぎ易い秋の夕暮れのことです。朝とは逆の方向に進む散歩の途中、誰も居ない公園に立ち寄り、散歩仲間の自由に任せ、その後をゆっくり歩いていますと、風も吹いていないのに、ドクダミの葉が一枚だけ揺れていました。

 視力と聴力の落ちた仲間には、その変化は見逃されましたが、仲間の進む方向に従うだけの男は、何しろ暇なものですから、微妙な葉の揺れを見逃しません。その場で立ち止り、腰を落として携帯電話のカメラを起動し、何物が現れるのかシャッターチャンスを待ちます。

 揺れるドクダミの葉の上に、小さなコオロギが一匹現れ、すぐ下の葉が揺れているせいでしょうか、頭の動きが右に左に止まりません。暇な男は、カメラをコオロギに近付け、事の成り行きを暫らく見守ることにしました。

 下の葉には、背から尾にかけ虹色に輝く、体長が一寸余りのトカゲが、獲物の動きを追い、右往左往しているのが映ります。上の葉では、動く物しか見えないトカゲの弱点を知っているのか、その時のコオロギは少しも動こうとはしません。危機一髪の瞬間をカメラに納めようとした男の願いも知らず、待ちくたびれた仲間が振り返ってワンと吠えれば、視界から二匹とも消えていました。

               昆虫を 追う爬虫類 見るカラス
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by tabigarasu-iso | 2007-09-13 06:04 | 随筆 | Comments(0)