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白髪の旅ガラス

師走の嵐

 サンタクロースの去った翌日、季節外れの嵐がやって来た。横殴りの雨は、冬物の厚いコートを濡らして重くし、更にズボンの裾も濡らして丸くする。暖房の効いた室内に戻れば、形の崩れた衣服も直に乾くが、再び外に出れば、傘も役に立たずに濡れネズミ。こんな日の外回りは避けたいものだが、師走ともなればそうはいかない。

 夕方、帰宅しても風雨は弱まらず、家を守る友の散歩に行く時間となったが、激しい雨音に耳を傾けた友、玄関前で伏せたままである。いつまでそうして居ても状況は好転しそうにないから、思い切って散歩に誘う。一度外に踏み出せば風雨もなんのその、役に立たない傘を差して、いつものコースを友と行く。

 ゆっくり散歩できない事態と知った友は、さっさと用事を済ませ、帰路に着くと歩調を速める。それでも、揃って全身を濡らしてしまったが、この日の風は南風で、それ程冷たくないのが救いであった。風呂場に入り湯を掛けてあげれば、ニンマリ笑う友の顔が、人のそれに見えてくる。

 相変わらず風雨が続く真夜中、いきなり雷が鳴った。元旦には着きそうもない年賀状の準備を進めながら、雷神の打つ太鼓の音を聞くのは初めてのことである。南半球に瞬間移動すればありそうなことと、人は勝手に想像できるから良いけれど、耳の遠くなった友は、真冬のドンピカドンに驚き、足元に擦り寄ると不安そうに見上げた。

                北風に 無理に揺すられ 鈴もむせ
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by tabigarasu-iso | 2006-12-30 14:45 | 随筆 | Comments(0)

深い衝撃

 馬場の四番目の曲がり手前までは、最後から三番目を走り、そこを通過した途端、外側の芝生に進路を大きく変え、一気に馬力を加速したのか、前を走る仲間を駄馬に変え、引き離すこと数馬身で到着の競走馬、それは名前の通り見る者に深い感動を与える馬であった。

 これまで競走馬に興味を持ったことは一切なく、当然のことながら競馬新聞も馬券も買ったことはない。そもそも、馬と言えば大きな身体を太い脚で支えた農耕馬が記憶に深く刻まれており、競走馬の細い身体を始めて見た時には、余りにも華奢な子馬のようで、それを一人前の馬とは認めなかった。以降、その記憶に書き換えはないから、競馬場にもディープインパクトの引退にも興味を持ったことはない。

 たまたま、テレビ解説者が語る最後の馬場に引かれ、名前だけは聞いたことのある競走馬の走りを観ていると、騎手でもないのに思わず腰が浮いてしまった。最初はゆっくり後方から、最後の見せ場で束ねて抜き去る、夢の中でしか実現できない逆転劇を、人ではなく馬が見せてくれるところが実に良い。

 それにしても、かような駿馬が引退とは、競馬愛好家でなくても残念である。体力気力の限界を悟り、力士は引退するけれど、彼の引退理由はそれでない。使用を禁止された薬物が、欧州で開催された競馬後の検査で検出されたことは、皆が報道で知っている。競走馬として人に磨かれ、圧倒的な輝きを放ちながら、人の勝手で競争馬でなくなる、これが一番の衝撃的な結末であろう。
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               百聞は 一見に負けよと 馬も言い
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by tabigarasu-iso | 2006-12-25 07:42 | 随筆 | Comments(0)

人間ドッグ

 人間が健康状態を確認する目的で、診療所に入ることを人間ドックと言います。治療が必要な箇所を、早期に発見するものですから、少なくとも一年に一度はドックに入り、目、耳、肺、胃、心臓、胆のう、すい臓、腎臓、肝臓、小腸それに大腸まで、自分では判断できない身体機能を冷静に診て貰い、更に可能であれば脳内も覗いて貰うに越した事はありません。

 それは頭で承知のことながら、自分の身体を他人に診て貰うことに対し、少しも抵抗の無い人は居ないでしょう。本年も又、まな板の鯉と諦め、調理人の言うまま、右を向いたり左を向いたり、続けて素早く一回転し、幼児の体操を想い描き、どうにも締まらない顔になりました。直に、笑わないでくださいと検査員に注意され、はいと返事も出来ない辛い鯉ですが。

 今回、初めて入る核磁気共鳴装置の小さなトンネルの下、何物が飛び出してくるのか判らず、両目を見開き正体を確かめようとしましたが、無駄でした。束の間に胸部を輪切りに透視され、胸の内が全て見られたようで気恥ずかしい思いです。それで、寝たままにして居れば、もう済みましたと催促されまして。

 ところで、人間ドッグは、健康診断ではありません。人間の感情を持つ犬のことを、そう言うのではないでしょうか。昨今、家族の一員として犬を飼う家庭が増えている所為か、当事犬は自分のことを人間と思い込み、話せば応えようとする段階です。けれども、人の言葉を話すまでには、もう少し時間が掛かるでしょう。

 かように、ドッグとドック、濁るか否かで、意味が大きく異なります。それを識別する人間ドッグの飼主は、拠り所としている脳の機能が低下しているか否か、健康診断のドックで、人間のドクターに良く診て貰うと良いですね。

 
                 朝一番 車内を揺する 鼾あり
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by tabigarasu-iso | 2006-12-21 23:54 | 随筆 | Comments(0)

当り前が難しい

 タイトルに惹かれ、内容も確認せずに購入した「アメーバ経営」の書籍、常識に捉われない発想の面白さに、コンサル往復の車中で読み終えました。手にしてから判ったことですが、著者は一流企業の設立者の方で、成功体験に基づく独特の経営管理システムには、学ぶものが多くあります。

 組織は、事業部、部、課、係といった単位で構成されていますが、アメーバ経営は、「係」に焦点を当てた経営と言えましょう。係長さん、あなたが経営者の立場で収支を管理し、利益を上げる仕組みですよと聞いたら、驚きませんか。そのアメーバが増殖し続け、今では世界的な企業になっているのですから、そっくりは潔くありませんが、少しだけ応用させて頂きます。

 まずは、人の心を引き付ける、具体的な方針を掲げること、それが要の始まり。次に、直接部門、間接部門を問わず、全作業単位で利益を意識した目標管理を展開し、進捗管理をまめに行い、目標達成を必須にすること。これは単位が小さいだけに、厳しく実施しなければ、組織全体が機能不全になりますから、当然のことでしょう。

 色々と要はありますが、とりわけ細胞のリーダー育成が重要です。まずは、機能に応じ内部でリーダーを育成する、育成する土壌がなければ外部から招く。そのリーダーには、人の心を大切にする人間性と同時に、経営感覚を持った人が任に当たる。至極当り前の話とも言えますが、これを実現するのは当り前ではなさそうですね。

               旅に出て 読み書き満たす 秋の暮れ
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by tabigarasu-iso | 2006-12-20 00:44 | 随筆 | Comments(0)

古い手帳

「2003年2月12日、何をされていましたか?」
 刑事からアリバイを確認された訳ではありませんが、三年前の或る日のことを、いきなり尋ねられたら、即答することはできません。

 そこで、取り出すのは古い手帳。前年のものは、仕事の関係で会社の机の引き出しに入れてありますが、それ以前のものは自宅の本棚にあります。書籍の片隅に群れをなす、使い古しの手帳を手に取り、酔い覚ましに数冊めくれば、その日の出来事が簡単に判明しました。

『西ヶ原にてコンサル。それなりに満足するも、疲れは隠せない』とあります。忘れ去った過去が判るまで、瞬間でしたが胸の騒ぎを覚え、必要もないのに前後をめくること一時間余り。その間、当時の有様が目の前に現れては消え、目頭が熱くなるのは、歳の所為だけではないようです。

 文字にする過去の行は僅かですが、その裏に控えた当時の生き様は、次々と浮かんで終りを知らず、記録を窓口に蘇る記憶の素晴らしさに感嘆するばかりでした。古い手帳など新年になれば捨てる方も多いでしょうが、幾ら保存しても百冊を越えはしないでしょうから、これからも大切に保管したいものです。

                  喧しく 喋ることしか 能も無く
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by tabigarasu-iso | 2006-12-17 14:31 | Comments(0)

一文字

 一年間の仕事を労い、乾杯を皮切りに、飲んで食べて話しに花を咲かせる、忘年の宴は楽しみの一つです。けれども、話の合う仲間が集まり、気遣いの席も生まれ、幾つもの話題が交差し始めましたら、それを取り纏める知的な余興が宜しいようで。

 ある席で、来年の抱負を漢字一文字で表し、その心を披露する余興が始まりました。営業の担当は「激」と答え、その心は激しく営業しますと、肩を上下に揺すります。それなら、「誠」で受講生に応対しますと研修担当が続き、それもこれも人の「心」を通わせることですから、それを組織力にしたいと白髪が呟けば、コンサル担当は先に言われましたから「志」に変えますと気を配り。

 やがて、皆が揃って余興に乗ると、管理の担当は記録係を始めます。別のコンサル担当が「公」ですよと静かに言うと、その漢字が思い浮かばない記録係に、ハムと皆が口を揃えて教えてあげたのですが、食肉しか浮かばない様子で、その心を聞き漏らし、記録することもできません。

 誰か替わりに書けば、記録係の面目が潰れます。ひらがなにしておきなさいと、そっと言ったつもりでしたが、皆が耳を澄ませていましたから、大爆笑となりました。それではと、益々興が乗ったついでに、宴に参加していない人の抱負まで想像することになりまして。

 地味な人には「笑」、それまでの話を最後に否定する人には「真」、それに凄みを期待する人には「姐」などと好き放題に。勿論、後で本人に修正して貰うつもりですが、意外と的を射ているとの評価に落ち着き、その夜の宴は一本締めとなりました。

               正直に 我を忘れる 忘年会 
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by tabigarasu-iso | 2006-12-16 17:09 | 随筆 | Comments(0)

約束

 ♪死んでも貴方と暮らして居たいと♪
 歌の文句ではありませんが、覚えの無いことまで約束できません。けれども、この世に命のある限り、互いに誓った決め事は、守りたいものです。それが、難しい場合も生じましょう。守れない理由を相手に伝える努力を惜しめば、大切な信用を失うこと、間違いありません。

「急ぎませんが、来週の月曜日の午前中に、コメントを御願いします」
 約束の期日まで、時間は充分ありますから、明るい気分で週末を迎えます。ところが、そんな時に限り、予定外の行事が入りまして。
「明日の告別式と明後日の葬儀のお手伝いを御願いします」
 これは、隣近所の重要な案件、断る訳にはいきません。仕事は夜でも可能ですから、昼は暗い顔に徹し、仕事は夜中の楽しみに回します。

 コンサル稼業、昼は客先、夜に充電が当り前。できれば、平日に限りたいところですが、じっくり仕込むには、土日の活用も止むを得ません。そこに予定外の案件が入れば、作業は真夜中に。支援を待つ方の顔を思い浮かべれば、それは苦にはならないのですが、家族は堪りません。

 時には心を鬼にして、家族と団欒の場を設けませんと、独身のコンサルに戻る恐れがあります。そこで、テレビ放映「ラストサムライ」を、家族と鑑賞することに。粗筋を話し始める伴侶の口を封じつつ、晩酌を楽しんでいますと、知らない間に夢の中へ。もはや仕事にはなりませんから、翌日の夜へ課題を回せば、その夜も新たな行事が入り、どうにもなりません。

 月曜の朝、打ち合わせ前の短時間、懸命にパソコンを睨んだものの、満足できるレベルには到らず、取り敢えずメール送信した後で、釈明の電話となりました。
「再確認したい点が残っていますので、東京のラストサムライに、もう少し時間を頂戴できませんか」
 恐る恐る御願いすれば、安堵の答えが速やかに。
「私も家族と観ましたから、ごゆっくり」

                 入札に 勝って淋しき 原価割れ
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by tabigarasu-iso | 2006-12-15 12:11 | 随筆 | Comments(0)

コンサルの一分

 武士が命を掛けて守らねばならない「名誉」や「面目」のことを、一分と言うようですが、名誉や面目を守ることでしたら、武士の時代に限らず、今の時代のどなたにも当て嵌まることでしょう。

 コンサルの場合、命を掛けて守るもの、それは微力ながら、社会的責任を果たすコンサル方針を拠り所に、コンサルを利用される方の信頼も同時に得ることかと思います。法規制違反を承知の上で、営利のみ追求の姿勢を改めようとしない組織があれば、コンサル契約を解かれることも覚悟の上で、法令遵守の仕組み作りを勧めることでしょう。

 これに対し、客の要望を聞かない無能なコンサルだと言われましたら。
「はいそうですか。お暇します」
とは、口が避けても言えません。
「何をおっしゃる社長さん。末永く会社を存続させる考えをお持ちなら、この機会を逃してはいけません」
 返り討ち覚悟で、説得にあたります。

 こうして、コンサルの一分を通せば、そこには強い信頼関係が生まれましょう。もしくは、即刻退席ともなり得ましょうが、その時は胸を張って堂々と退く、潔い後姿を残します。これが、コンサルの生き様でして、頂戴した時間も、丁度六十秒となりました。

コンサルも 一分あって 席を立ち
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by tabigarasu-iso | 2006-12-12 20:49 | コンサルサービス | Comments(0)

むのうやく

 リンゴを栽培する際、化学薬品を一切使用しない、無農薬の道を選んだ、テレビ番組の後半だけを観ました。五十を過ぎた主人公の顔は、年齢より遥かに老け込み、これまでの辛苦が現れているようです。ひょっとしたら、殆どの歯が抜けていた所為かも知れませんが。

 確か、主人公は、農薬の代わりに、酢を散布していたようです。リンゴの木の表情を見て、人と接するように語り掛け、自然が生み出した酢だけを使い、見事なリンゴを出荷させるまで、人には言えない努力があったのでしょう。

 それを笑顔で語り、口にはしない、そればかりか、試行錯誤の成果を、教えを乞う者に教える、その人の顔が仏様に見えたのは、少数ではない筈です。弟子の持ち寄った成果、苦戦の末に漸く実らせた、見栄えの良くないリンゴを齧り、旨いと微笑む主人公には、学ぶところがありませんか。

 ところで、むのうやくは、「無能役」とも書けます。しかるべき役職に就きながら、その任を果たせない人が、責務を果たすようになるには、どんな薬が効くのでしょう。それには、リンゴの木を無農薬で害虫から守り育てた「厭きない信念」、それを実現する「プロセスの重要性」を認識することでしょうか。
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                  夕闇に ワインレッドの 菊の花
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by tabigarasu-iso | 2006-12-10 16:25 | 随筆 | Comments(0)

念には念を

 ジェット機の左翼の下に陣取り、地下に埋設された給油タンク口の周囲を防油柵で囲み、左翼と給油タンクを給油パイプで繋ぎ終え、安全確認の指差しを二度続けて行う整備員の姿が見える。声は聞こえないけれども、ヨシヨシと言っていることであろう。

 シナリオの通りに進む給油作業は、搭乗を待つ一時の暇人を飽きさせない。人の目を意識している訳ではなかろうが、その動作の一つ一つに無駄が無く、手馴れた消防隊の訓練を想い出させる。その中で、指差し確認だけは、何かに憑かれたように繰り返し、観る者に強い印象を残す。

 間も無く、機首の右下へケータリングの大型トラックが近寄り、荷台そのものをエックス型のリフトで突き上げ、見覚えのある手押しの台車を機内へ次々と押し込む。だが、その作業には、念には念を入れる指差し確認が伴わず、やや拍子抜けがした。

 こうして、大きな窓ガラス越しに進められる飛行の準備は、大型スクリーンに映し出された無声映画を観るようであり、日常と懸け離れた映像を独り占めにして、あれこれ評論するのも良いものである。


               便利かな 休む間のない モバイルは
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by tabigarasu-iso | 2006-12-10 16:09 | 随筆 | Comments(0)