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白髪の旅ガラス

カテゴリ:小説( 405 )

腹に落ちる

 「腹に落ちる」物は水と食料ですが、別の意味では納得する、得心する、なるほどそうだと思う意味があり、意味は分かっても、納得の出来ない事柄もあるから、それは腹に落ちないことになるのでしょう。


 ところが、「腹に落ちる」と言う言葉を知らない人は、それを耳にして首を傾けることになります。

「確かに、説明は腹に落ちました」

「・・・すいませんがもう一度」

「具体的な説明で腹に落ちました」


 腹に落ちる喩を知らない人は、具体的な説明で何が腹に落ちたのか尋ねたい気持ちを抑え、分かったように言いました。

「なるほど、有難うございます。私の説明が腹に落ちたのですね」


 そう言いながら、説明が腹に落ちるとは、説明に得心する意味だと話の流れで理解した人は、続けて返します。

「私も自分の説明を貴方に得心して貰い、何となく腹に落ちました」


腹の中 「に」と「から」とは 大違い



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by tabigarasu-iso | 2017-10-27 16:30 | 小説 | Comments(0)

ハゼ

 タナゴと一緒に買われて水槽暮らし。多分、三年は経ったと思うが苦にしない。寿命の来る日まで、タナゴの餌を分けて貰う。


自分の仲間は三匹、集まる習慣もなく、それぞれ好き放題に暮らしている。傍から見れば寂しそうで、素焼きの壺を買って貰った。


最初に見付けたのは自分、壺の中にある小石を壺から運び出し、広くなった壺の中で満足している。腹が空いても、留守には出来ない。壺の上で中を狙う仲間が待っている。


もしかしたら彼女かも知れないが、自分にはそれを確かめる術がない。仲良く、近くを二匹で泳ぐタナゴに聞いてみるか。


縄張りに 隠れて眠る ハゼもあり

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by tabigarasu-iso | 2017-09-25 14:00 | 小説 | Comments(0)

目に見えない不思議な力

 日が昇り暫くたった時のこと、驚くと尾が太くなる僕は階段に座る巨大な生き物を発見しテーブルの下に潜り込んでしまいました。


 この家に世話になって四年目になりますが、階段に住む怪物に出会ったことは一度もありません。出来ることなら撃退し、家人を安心させてあげたいところですが、とても歯が経ちそうにもない。


とは言え、怪物は追い掛けて来る気配もありません。落ち着きを取り戻した僕の尾が元に戻ったところで、もう一度発見場所まで怪物を探しに行くことにしました。


そこには誰も居ません。洗顔を済ませた女性が一人居るだけです。僕には目に見えない不思議な力があると思いましたが、勘違いし易い、臆病な性格の所為であったかも知れません。


盆の頃 先祖の霊が 見えそうな



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by tabigarasu-iso | 2017-08-13 20:30 | 小説 | Comments(0)

おばんになりやんす

 猛暑から一転して、凌ぎやすい盆前になりました。山仕事から帰った顔見知りに掛ける村人の言葉は、平成のものとは思えません。

「おばんになりやんす」

「いいあんばいで」

「本当だな。きのうまでの暑さ、何処へ行ったんだんべぇ」

「おらあ知らね」

「そんだな。おめえさんに聞いた俺が間抜けだ」

「待てよ。まだ、俺はボケちゃいねぇ」

「そうさ、百歳を少し越したばからだからな」


 山仕事を終えた翁は、ルールも良く判らないプロ野球を楽しみにテレビ観戦しながら、戦後72年を想い出しているようです。野球は敵国のものだと口にすることもなく過ごした青春があったこと、休みなく働くことが当たり前で土日の休日などなかった。


涼しい風が吹き込み、聞こえ難くなった翁の耳にも雨音が聞こえます。

「明日は骨休みだ」

 翁の独り言を耳にしたお婆さんは、大きな声で言った。

「山の日ですよ、お爺さん」

「そうだな。山の日が出来るとは驚いたもんだ。いつか、空の日も出来るだんべ」

「間違いねぇ」


 緑の日、海の日、山の日、そして川の日から空の日まで、自然を大切にする祝日が増える世の中になるとは、大正生まれの翁には想像出来なかったことでしょう。

「おばんになりやんす」

夜分、何処からか懐かしい声が聞こえてくるようです。


油蝉 脱皮しないと 夏が過ぎ


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by tabigarasu-iso | 2017-08-10 22:11 | 小説 | Comments(0)

蝉の避暑

 出番ですよと言われて土の中から這い出た油蝉でしたが、地上の猛暑に圧倒されて鳴くことを忘れたようです。


太陽の光が降り注ぐうちは網戸に張り付いたまま、それに気付いた翁がカメラを向けても逃げることはありません。


やがて太陽が西に隠れて薄暗くなりましたが、未だ用心して動く気配はなく、風が吹き始めたところで安心したようです。


本能に導かれるように網戸を離れ、育てて貰った琵琶の木を目指し迷わない。まっしぐらに飛翔すること数秒、樹幹に溶け込み見えなくなりました。


 初蝉に 熱中症を 心配し

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by tabigarasu-iso | 2017-07-15 09:30 | 小説 | Comments(0)

サクランボ物語

 梅雨明けが話題になる頃、サクランボも店頭に並び始めます。綺麗に箱詰めされたものは、手間暇を掛けたものですから、それなりの値札に頷くばかり。手に取ることも恐れ多く、その場を急ぎ足で通り過ぎながら、翁は生まれ育った田舎の庭の片隅に植えてあった桜桃の大樹に上ったことを想い出していました。


木の高さは農家の二階屋根より高く、太い幹は大人でも隠れることが出来るほど。夏が近付くと桜桃は梢に沢山のサクランボをぶら下げ、食べたかったら上っておいでよと子供達を誘いました。


根元から最初の枝まで太い幹を上ることが出来れば、その先には枝が四方に広がり、白色から赤色まで色とりどりのサクランボが待っています。当時の翁は身軽でしたから、両手両足を駆使して尺取り虫の如く上って行きました。


翁より小さな弟達は、木の下でサクランボが落ちてくる瞬間を待っています。翁は、ピンク色になり始めたサクランボを味見してみました。それこそ採り立て、頬が落ちる甘さを知った瞬間のことです。ボキリと鈍い音が聞こえ、翁の身体は落ちて行く。

「あんちゃんじゃねぇ、サクランボだよ」

 弟の不満な声が遠くから聞こえたものです。


桜桃を 腹一杯 食べる夢

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by tabigarasu-iso | 2017-07-03 09:00 | 小説 | Comments(0)

掌編小説

 短編小説より短い掌編小説と言うものがあるらしい。二十行小説とか、一枚小説と言う人も居る。


 待てよ、ブログの呼称とシステムを借り、時折、日記ではなく短い小説を掲載し続けて十二年余り、白髪の旅ガラスの小説は掌編小説そのものであった。


 そのつもりで本人は書き続けきたが、ブログを読む人は日記だと思い、旅ガラス自身が認める人格とは別な作者を想像していた人も居ることだろう。


 どちらにしても、人間としては似たようなもので大した差はないが、想像の世界で創り上げた物語を現実にあるものと信じて読んで貰っていたとすれば、作者の狙い通りである。


 超短編 気軽に綴る ブログあり

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by tabigarasu-iso | 2017-06-25 14:46 | 小説 | Comments(0)

吾輩は猫であるが

 吾輩、驚くと尻尾の毛が逆立ち、狸のようになる。野良から家の中で暮らすようになり、何も驚く必要はなくなった筈なのにどうしたことだろう。


 もしかしたら、近眼の所為かも知れない。予め遠くまで見えていれば、危険に備えて匍匐前進する習性があるから、相手に見付からないよう迂回するのだが。


急に現れた人や鳥には、かつて虐められた記憶が蘇り、その時の反応が再現されるようである。相手が危害を加える可能性のない子供であっても、高い声音が耳に飛び込み、鼓膜が破れそうで堪らない。


所謂、吾輩は怖がり屋の虎猫だが、尻尾を狸に負けない太さにする特技がある。そう思えば気持は明るく、これからも驚く度に遠慮なく尻尾を太くしようではないか。


 尾の太い 狐狸に 学ぶ猫

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by tabigarasu-iso | 2017-01-11 12:58 | 小説 | Comments(0)

トカゲの尻尾切り

昼間、夜行性の僕は寝てばかりいる。

 それでも、トイレは綺麗に使用する。

 たまに、眼を覚ますと散歩がしたい。

 家人の様子を伺い、猫撫で声を出す。

 すると、暇人は二階から降りて来る。

 首輪を付けて庭に出ると、何か動く。

 さっと、両方の前足を乗せ抑え込む。

 暫くして、足を上げれば尻尾が動く。

 胴体は何処に行ったと、暇人が言う。

 それは、僕の言い草ではなかろうか。

 気分を悪くした僕は、自ら帰宅した。


 草むらに 太陽浴びる トカゲあり


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by tabigarasu-iso | 2016-09-07 18:00 | 小説 | Comments(0)

シビアな情報交換

 病院の待合室、類似の病を患っている人が集まり、深刻な話を明るく話している。

「同じ悩みを持っているから、話せるのね」

「そうよ。この場だと、安心して話せるの」

 申し訳ないと思いながら、聞こえない振りをしながら、すっかり会話を記憶した。

「うちの人、弱気で駄目なの」

 横で静かに頷く男が居る。

「本当に前向きな良い話を聞かせて貰ったわ」

 前向きな人は、ひ弱な男に同情したらしい。

「私、楽天的な性格ですから」

「それは良いことですわね。でも、うちの人の性格は直せないから」

 どうやらひ弱な男の病の原因の一つが、この人にあるようだ。

 強引な人は更に言う。

「ところで、今後も色々と聞かせて貰いたいの。電話番号を交換してくださる」

 その場で終わる会話かと思ったが、これからも続く可能性が出て来た。

「ええ、宜しければ」

 前向きな人は、強引な人から渡されたメモ用紙に電話番号を笑顔で書き込む。それを見て見ぬ振りの自分は、強引な人と同じ人種かも知れない。


強風に 皇帝ダリア 腰折れて

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by tabigarasu-iso | 2016-08-27 17:20 | 小説 | Comments(0)