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白髪の旅ガラス

陽だまり

 陽だまりに、黄金色に輝く体毛を預ける老犬あり。それもガラス越しの室内ゆえ、風も受けずに暖かきこと、瞼を閉じて寝息を立てていることから知れる。とうに散歩の時間も過ぎたことゆえ、身体に溜まりし老廃物を排出しなければいけないのだが。

「もしもし、起きませんか。時間ですよ」
 かように呼び起こしても、耳の遠くなったせいか、何の反応も見せず。そこで、気持ち良く朝寝寝坊を楽しんでいるのだからと思い直し、足音を立てないよう抜き足差し足でその場を離れた。

 やがて陽だまりが動き、体毛を暖めることを止めれば、夢から醒めるに違いない。その時になれば、散歩が急務であると自覚して、暇そうに観察する男に向かい、軽く一声吠えることになろう。

『待たせて、申し訳ない』
 一度起き上がれば、じっとなどしては居られない。男の身仕度を急かせようとして、玄関に一足先に降り立ち、再び吠える。
『さっさと頼むよ、女性じゃないのだから』
 さよう、老犬の分身排出の我慢も限界であった。
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                還暦を 過ぎて流行るは 愛のままで
by tabigarasu-iso | 2008-12-10 21:31 | 随筆 | Comments(0)