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白髪の旅ガラス

新幹線の囁き

 平均株価が安くなり、ドルに対して円が高くなろうが、直流モーターを回す電力が供給される限り、我等の東海道新幹線は不平も言わずにひたすら走る。中でも大きな負荷が掛かる区間は、東京駅から名古屋駅までだが、車内には、様々な人々が乗り込み、騒々しいドラマが展開される。

 三人掛けの席を向かい合わせにした六人連れの中年の女は、揃ってディズニーランドの袋を荷物棚に放り上げると、手荷物を席の後ろへまごまご片付けながら、通路を塞いで後続の客の足を止めた。それを何とも思わないから、実に嘆かわしい。一言、「すいません」くらい言えば許しても良かったが、六人揃ってのことだから、中年失格である。

 予測した通り、それからは傍若無人、個室を確保したかの如く、声高な会話が始まった。通路を隔てた中年サラリーマンなど、眼中に無い様子である。それぞれが弁当を膝の上に広げ、話しながらも箸を忙しく走らせる、レベルの高い息の合った得意技は素晴らしい。そればかりか、向かいの仲間の足を揉み始め、靴下を取って指先の健康講座を開始した。これは、見た目を考えれば正しく場違いの行為であり、やり過ぎである。

 そんな光景が視界の隅に入れば、口には出さないけれども、無視は出来ない。孤独の時間を楽しむことを諦めたサラリーマンは、見苦しい光景を避けて目を閉じてから、六人の女が勝手に語る生のドラマを、耳に入れるしかなかった。かように、他人の時間を奪うこと、立派な犯罪と言えよう。

                諦めて 瞳閉じれば 時が飛ぶ
by tabigarasu-iso | 2008-10-29 06:55 | 随筆 | Comments(0)