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白髪の旅ガラス

ズボンの裾が丸くなり

 横殴りの雨が路面で跳ね返り、傘を差しながら足元まで濡れる土砂降りに遭遇すれば、クリーニングから帰ったばかりのスーツも、瞬く間に節目の線が消え失せてしまう。それが顕著なのは、先程まで折れ目の正しいズボンの裾であった。

 革靴の上に張り付いたズボンの裾を引き上げてみれば、すっかり折れ目が取れて丸くなり、いつでも試合に臨める選手の足元の如く準備が出来ている。人差し指を入れて折れ目を再現しようとしてみたが、形状を記憶しない繊維が笑っているようだ。

 これがジーパンであったなら、鼻から苦にならないものを、スーツだから気になってしまう。こうしたことも、愚かな思い込みかも知れない。ズボンの裾に折れ目があろうがなかろうが、仕事を進める上で支障はないのだから、それを気にする習慣を見直すことが必要である。

 さもなければ、物事の本質を見抜き、今何を行うべきか、適切な判断など出来る筈がない。予定外の雨に打たれ、衣服はもとより革靴まで濡れて、そのまま満員の電車に乗り込めば、自他の汗の匂いが鼻を突き、改めて人間臭さを想い出すことができたようである。

模擬審査 本番以上 厳しくて
by tabigarasu-iso | 2008-05-21 22:58 | 随筆 | Comments(0)