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白髪の旅ガラス

命拾い

 凌ぎ易い秋の夕暮れのことです。朝とは逆の方向に進む散歩の途中、誰も居ない公園に立ち寄り、散歩仲間の自由に任せ、その後をゆっくり歩いていますと、風も吹いていないのに、ドクダミの葉が一枚だけ揺れていました。

 視力と聴力の落ちた仲間には、その変化は見逃されましたが、仲間の進む方向に従うだけの男は、何しろ暇なものですから、微妙な葉の揺れを見逃しません。その場で立ち止り、腰を落として携帯電話のカメラを起動し、何物が現れるのかシャッターチャンスを待ちます。

 揺れるドクダミの葉の上に、小さなコオロギが一匹現れ、すぐ下の葉が揺れているせいでしょうか、頭の動きが右に左に止まりません。暇な男は、カメラをコオロギに近付け、事の成り行きを暫らく見守ることにしました。

 下の葉には、背から尾にかけ虹色に輝く、体長が一寸余りのトカゲが、獲物の動きを追い、右往左往しているのが映ります。上の葉では、動く物しか見えないトカゲの弱点を知っているのか、その時のコオロギは少しも動こうとはしません。危機一髪の瞬間をカメラに納めようとした男の願いも知らず、待ちくたびれた仲間が振り返ってワンと吠えれば、視界から二匹とも消えていました。

               昆虫を 追う爬虫類 見るカラス
by tabigarasu-iso | 2007-09-13 06:04 | 随筆 | Comments(0)