2005年 11月 18日
気を使われて気を遣い
カウンターに一人、つまらなそうに煙草をふかし、寿司ネタを摘む男の他に、店内に客は居りません。静かな目的は達したものの、味の方が心配になりまして、取り敢えず、ビールを頼み、一杯飲み終え腹を決めたところで、にぎりの竹を頼みます。
「お客さん。そのビールの味を変えてみせますから、今の味を覚えておいてください」
結構ですとも言えず、黙って頷くと、寿司を握る手を休め、ビールの入ったグラスをじっと睨み、何やら『気』を入れたようでした。
「さあ、飲んでください。辛くなった筈です」
何となく、辛口になったのが不思議で、少し大袈裟に驚いてみせますと、今度は泡を失くすと張り切ります。ビールに泡は付き物で、それは望まないと言いたいところですが、にぎりの質を落とされてはいけませんから、仕方なく承知しました。
その板前さん、かような能力、自然に体得したとのことです。その『気』か、或いは『時間』の所為か知りませんが、その泡が消えたことを告げれば、にぎりのネタが笹の葉に着くばかりの勢揃いとなりました。それは、大変結構な味でしたが、自分勝手に気を使い、相手に余分な気を遣わせてはいけませんね。
木枯らしに 今年も来たかと 襟を立て