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白髪の旅ガラス

 その日、旅ガラスは大阪の空を舞う。命を取り合う戦ではないが、客人相手の真剣勝負に変わりはない。たまたま、三十年振りに風邪を引き、咳と淡が戦の最中に込み上げた。思い切って咽れば良いが、話の途中では難しい。

 暫し呼吸を整え、押し寄せる咳の噴火が静まる時を待つ。話を聞く方にしても、話す側の苦しむ姿は見えても何とも言えない。そこに、仕方なしの沈黙が生まれる。
「・・・すいません」
 
 そう、咳を堪えて押し出した言葉に力はない。ペットボトルの茶を含み、気管支の繊毛が騒ぐのを止める。乾いた喉に水分が沁み込み、それに反応して繊毛の痒みは止まった。
「失礼しました」

 力強く詫びて、話を先に進める。一呼吸置いたのは、双方に取り骨休めになったようだ。良く見れば、話を聞くのに疲れた相手の顔に笑みが戻る。してみれば、たまには間を取りなさいと咳に教えて貰ったようだ。

 枯れススキ 飲んで歌った その昔
by tabigarasu-iso | 2013-11-18 00:00 | 随筆 | Comments(0)