2013年 11月 12日
V路線の旅
荒川沖駅に降りるのは、三十年振りのことである。当時、駅の改札は一つで駅前には食堂が一軒あった。選びようがなく、その店の暖簾を何度か潜ったものである。今では派手な外見の大型店が構え、当時の面影は全くない。
タクシーで十数分、訛を期待して話し掛けたものの、運転手は東京弁で失望した。当時の運転手は訛が強く、茨木に来たことを耳で実感したものである。気を取り直し、ホテルに荷物を置いて夕食に歩いて行けば、北風の寒さに身体は芯まで冷え行く。
店に入り、何はともあれ熱燗を頼む。
「すいません。メニューから外したところです」
「どうして」
「殆ど出ないものですから」
「仕方ないね。なら、赤のグラスワインを頼みます」
それから数分、店員の手にはない筈の熱燗がある。
「冷蔵庫の隅に、一本だけ残っていました」
店員の思い遣りが加わった熱燗で、心から温まることが出来た。
コート着る 足元寒い 空いた席