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白髪の旅ガラス

水田の王様

 田で暮らす水棲昆虫のタガメは、体長が七センチメートルもある昆虫の王様。たかが昆虫ですが、雌が稲に卵を産み終えると、雄は卵が孵化するまでその場を守り、やがて孵化した幼虫が一斉に水中へ落ちると、その先には落下を予見した雄が待って守るのです。自分が生んだ子供すら、まともに保育できない人間には、是非とも見せてあげたい場面でしょう。

 海に棲む亀は海亀、山に棲む亀は陸亀、田に棲む亀は田亀、それに姿が似ているところから、昆虫なのにタガメと名付けられたらしいのですが、定かではありません。水中を動く獲物が立てる波を察知し、鋭い鎌に似た前脚で捕獲すると、蛙さえ食べてしまいます。その幼虫が田に撒く農薬に弱く、今は絶滅の危機にあるとのことでした。どうりで、目にすることが少ない筈です。農家の方には申し訳ないことですが、田に撒く除草剤などを、減らすことはできないものでしょうか。こうした昆虫の種の保存は、人類の存続にも重要なことですから、無農薬は難しいかもしれませんが、減農の努力に期待したいものです。

 ところで、水棲昆虫にも拘わらず、タガメは冬を越すため、雑木林の枯葉の下に潜り込んでいるではありませんか。してみると、その姿を我等の子孫に見せてあげるには、水質を守るだけでなく、腐葉土の保全も必要なことが判ります。そのためには、田の近くに林があることが必要な条件になりますので、環境保全の輪を水質から土壌にまで広げる必要性を、改めてタガメに教えて貰いました。

 画像は、筆より事実を強烈に伝えます。タガメが蛙の腹に針を刺し、麻酔の液で無抵抗にしてから肉を溶かして、その汁を吸い取る映像は、息を呑むほど残酷でした。が、それほど力のある大型の水棲昆虫であっても、幼虫の時代には農薬に勝てません。同じ様なことが、メダカやタナゴなどの淡水魚にも言えるでしょう。今後も、水田を棲みかにする動物達が居る限り、我々も安心してお米を口に入れることができることを忘れず、食の源流から環境保全、それに食の安全を確保したいものです。

産み落とし 後は任すと 雌は去る
by tabigarasu-iso | 2005-09-28 20:57 | 随筆 | Comments(0)